第4章 第三章 地球を大切にノーモア森林破壊
いっそ臭い台詞を呟いて、彼岸花は歌仙を見た。
「……………………」
「……………………」
雨の音だけが倉の中に響く。
歌仙は、彼岸花の本体を持ったまま、立ち尽くしている。
「………言わないと、解んないよ。私には、君の心を読むことなんて出来やしない。」
「………誰かがやらないといけないんだ。」
「私を殺すことを?」
「………違う、邪魔者を排除することを。」
「邪魔、邪魔って私が何したんだ。ただ、畑を耕したりしただけだろ。そんなに、私が怖いか。こんな、戦に出たこともない小娘が」
彼岸花の言葉に、小さく歌仙は首を振った。
「君は、何よりも恐ろしいよ。どれだけ避けていたって、直ぐに人の心の一番奥まで踏み込んでくる。」
「…………」
「僕は、恐いんだ。君が、僕の心の醜い部分を見つける君がね。」
「………なら、君が恐いのは自分自身だね。私が恐いなんてのは言い訳でしかない。いい加減、目を逸らすことを止めたらどうかな。」
突き放すように、彼岸花は言った。
理解したいと思う。でも、相手にその気が無ければ相互理解なんてのは一生不可能だ。
歌仙が彼岸花を通してみているのは、自分。自分しか見えない奴に、彼岸花は優しくする気もなかった。
「…………………雨の音がね、聞こえないんだ」
ポツリと呟かれた言葉。その意味を、彼岸花は黙って飲み込んだ。
「もう、長い間。聞こえない。雨も、風も、人の声も、自然の声も。昔は美しいと思った全てが、聞こえないんだ」
呟くと絶望した様に歌仙は膝をついた。彼の肩が震えて、彼岸花の本体も揺れる。
「人の心を持って、この世界を美しいと思った。なのに、それがいつしか黒ずんで、聞こえなくなって、僕は、僕が解らない。」
「皆、おかしいんだ。一人一人、落ちていく。それを、僕だって始めは止めようとしたさ。だけど………」
「何時しか、蜘蛛の巣のようなそれが、食い散らかしていたんだ。」
何時からか歌を読むのをしなくなって、明日を考える事をしなくなった。雨も日もどうだってよくなり、言葉を口にすることをやめて、ふと気付いた時には、何が大切だったのか解らなくなった。
「もう、僕には何を変えればいいのか。僕はどうするべきなのか。解らない、君には解っているのか………?」
すがるような問いに、彼岸花は目を閉じて口を開いた。