第3章 第二章 変化を求める、カメレオン
「それが、余計なんだ。一兄は、もう、そんなことを気にしなくたっていい。」
そんなこと……………よく言えたものだ。
彼岸花に一期の心の全ては解らないが、予想できる範囲でも弟たちが核なのは解っていた。
(兄を守る弟か)
もし、それが事の真相なら、一期はもう、壊れていることになる。
「私を鬱憤晴らしの生け贄にでもするつもりだったのかな」
せめて、そうでないでくれ。そう思いつつも、現実は非情で。彼岸花なんて、ちっぽけな存在の願いは通じない。
「いいや。最初は本当に逃げたんだと思った。」
「"最初は"」
「あぁ。あんたが、他の槍と戦っていたことは、俺も見ていた。」
「見ていたか」
戦っている最中に視線などは一切感じなかった。兄弟揃って恐ろしい。
「でも、それなら、何故?どうして、嘘をついたの?」
聞くべきじゃない。解っているのに、否定を期待する馬鹿な自分が居た。
「解ってんだろう?………見知らぬ女より、今まで俺達を守ってきたばかりに壊れちまった兄弟だ。」
「…………………」
(………………そうか、何も伝わってはいなかったか)
「俺達は、俺達の手で兄弟を守る。あんたの出る幕はないし、出させるつもりもない。」
「壊れてしまったことを認めない限り、何も変わりはしないんだよ」
「それでいいさ。変化なんていらない。それが、俺達の答えだ」
「それで、貴方のお兄さんが苦しんでいても?」
「………………………………あんたも直ぐに解る。大将の恐さも、底のない苦しみも…………兄弟が居れば、それだけで救われる心も。」
「それでも、もがくことを止めてしまったら、おちていくばかりだ。」
「なら、あんたは惨めにもがき続ければいい。」
「もちろんですとも。」
見つめあった薬研に微笑む。宣戦布告だ。
「惨めだろうと、情けなかろうと、もがいてやるさ。諦めるには早すぎるでしょう?」
「…………………………………一兄があんたを見て苦しんだ理由がよくわかるよ。」
「今回は俺っちが悪かった」そう言うと、他の兄弟の元へと歩いていく薬研。
その謝罪に、救われたような、首を絞められたような、矛盾する思いを、彼岸花は感じた。
立ち尽くす彼女を、呼び止める者など、いない。
「彼岸花様!」
………と、思っていた。
「あ、こんのすけ」
「ご無事ですか!!一期一振と対峙していたように見えましたが」