第3章 第二章 変化を求める、カメレオン
引けない誇り。
言われたくない台詞だった。一期にはもう、見えなくなってしまったものだから。
ーーーお前自身の誇りは、どうなったんだよ。弟、弟って。弟が居なくなったら、お前に誇りはないのか。
自分の誇り。それは、弟達を守ることで…………でも、それじゃあ、弟がいなかったなら自分はどうする?
二年間。二年間、悶え、苦しんだ。
状況を変えようと主に言葉を投げ掛け、少しでも弟を楽にしてやろうと敢えて命令に従ってきた。庇ったら余計に酷いことになると。弟が殴られても見て見ぬふりをし、主の居ないところでは優しくする。
そんなひきょうさがにくかったんじゃないのか。
自分の誇りなんて、もう、解りやしない。
未来なんて、知りたくもなかった。
(…………………………殺さないと)
脳内で呟く声に、同意した。
「…………………………っ!!」
その時、女の目を見てしまったことを一期は後悔した。
「…………………」
必死に刀を支える女。余程辛いのだろう。その顔にも汗が滲み、疲労が見えていた。
なのに、どうして。
なぜそんなめをする?
一期を真っ直ぐ見つめるオレンジ色の瞳。水晶玉のような澄んだ色に、何かが切れた。
「あ、あ……………頼むから、死んでくれ!!!!」
突如怒鳴り声をあげる一期一振。その顔は、冷静のれの字もなく、必死だった。
その豹変ぶりに彼岸花もぎょっとするが、力が緩んだその一瞬に、相手の本体を払った。
二歩、三歩、よろける一期一振。彼は、そのまま尻餅をついた。
「……………………えっと、聞こえてますかー?」
返事はない。屍ではないと思うが、どうしたのだろうか。
「………………一応、説明しておくけどな、私は他の槍と戦ってたんだよ。本当に奇跡みたいな勝利だったわ。勝手にあの場を離れたことは悪いと思う。だけど、見捨てたわけでも、どうでもいいと思ったわけでもない。私なりに何かしようと思った末の行動だったんだ。だから、君の弟さんのことも…………………」
「止めてくれないか」
割って入ってきた声に、振り返ると、薬研藤四郎が立っていた。
その手には、本体が握られている。
「一兄!!」「大丈夫!?一兄!」「しっかりしてよ!!」
背後からは一期一振の弟たちの声が聞こえる。
「私が悪者か………」
「決まってんだろ。よくも、一兄を追い詰めてくれたな」
「話、聞いてなかったのかな?普通の対話だよ」