第3章 第二章 変化を求める、カメレオン
(いったん、この人の動きを止めないと。)
話はそれからだ。
居合いは素晴らしい腕前だった。それこそ、あの槍達が雑魚に思えるくらい。
一期一振の纏う空気は重たく、その顔にはこちらを殺そうとする意思しか浮かんではいなかった。
小細工の通じる相手じゃない。理解すると同時に、彼岸花は一歩下がって間合いをとった。
何にせよ、当たれば終わり。それだけで、何もない。
だが、相手は物言わぬ歴史修正主義者じゃない。弟を守ろうとするただの兄だ。ならば、やり方はある。
「………………まぁ、待てよ。殺す前に一つ教えてほしい。」
「なんでしょうか」
「どうして、私を殺そうとする?そんなに女が気に入らんか」
彼岸花が尋ねると、一期の目が細くなった。
「どうして?ですか、本当にどのような神経をしていれば、その様な事が言えるのか。」
「意味が解らん。私は、普通に戦って置き去り食らったんだが。寧ろ、被害者だわ」
彼岸花が一期の教育について説教でも始めようかと思い始めた時、ふと視線を感じた。
顔を上げてみると、屋根の上に銀髪の短刀が居た。
長い銀髪を風に揺らしながら、短刀はこちらをじっと見ている。彼岸花と目があっても逃げようとしないことから、随分と連中に安く見られていることが解った。
「被害者、ですと?………成る程、やはり貴方もそうか。人と、あの女共ど何一つ変わりやしない。刀といっても、所詮は浅はかな童子。誇りも恥じもありはしないか」
早口でそう捲し立てる一期。
彼岸花としては、何を言っているのか訳が解らなかった。
「恥じは確かにないけど、誇りはある。そんなの、当たり前だろう。とにかく、訳がわからん。」
「ーーー敵を前に逃げておいて、よくそんなことが言えますな!!」
「…………え?」
それは、予想すらしていなかった言葉。
(逃げた?私が?)
頭の中に蘇るは、つい数時間前の出来事。
怯える大和守。
彼岸花は、足を止めて、敵を殲滅することを選んだ。
覚悟を決めながら、林へと走る彼岸花。
制止する声はなくて、林の先で囲まれて…………。
戻ってくると誰もいなくて、槍が殺されていた。
(槍が殺されていた……………?)
そこで、彼岸花は恐ろしい可能性に気がついた。
それは、一期の怒りの原因でもある。偶然が引き起こした不幸。