第3章 第二章 変化を求める、カメレオン
林の中を無我夢中で走る。
暫くの間、自身の走る音以外、何も聞こえはしなかったが程無くして同じように走る音が聞こえ始めた。
徐々に近づいてくる音。それが、敵のもの以外のなんであろうか。
(やっぱり、結構いる)
物音の元凶らしき影はざっと七つ。早さからして、短刀かとも思ったのだが違う。もっと、大きな影だ。
(……………………!林の出口………)
前方に見えてきた光に彼岸花は覚悟を決めた。迎え撃つ。
……………しかし、彼女はこの後、知ることとなる。最初から迎え撃つ以外の選択肢が無いことを。
「っな!うわぁ、崖ですか……………」
そう、林を抜けた先。そこは、崖であった。
(…………誘導されたのか?えぇ、知恵あるなぁ。私より賢いで)
不意で仲間を一人落とせば、誰かが突っ込んでくると解っていたのだろう。もう、本当に勘弁してほしい。
まんまと罠にはまった彼岸花は、予定通り迎え撃つしかなかった。…………どっちの予定とは言わないが。
抜刀した状態で、相手を待つ。七つの影は、それぞれ林から姿を現した。
「………………君達はあれかい。槍?槍か。はぁー」
いよいよ後が無くなってきた。
槍を防ぐ術など、彼岸花は持ち合わせていない。
今の彼岸花は奴等にとったら、ただのカモ。雑魚とも言えるし、動く経験値とも言える。
(よろしくないな)
彼岸花が追い詰められる。彼岸花が一歩下がれば、奴等は一歩踏み出した。
後ろは崖。前は敵。
足を後退させると、小石がひとつ、転がって崖へと落ちていった。
崖のそこは見えない。落ちたら終わり。
(さてさてさて。どうしたものか……………な?)
ふと、閃いた。今日は中々冴えている。
最初に滑りはしたが、現在の頭は宜しいようだ。
彼岸花が内心ほくそ笑んだ時、ついにジリジリとした展開が終わりを迎え、槍の一人が動いた。
「…………………!……………!!」
声なき声をあげる槍に、彼岸花は構える。
一世一代の勝負。
決まるのは一瞬。
「やってやる」
槍の動きを必死に追いかける。
槍が腕を引く………
(今っ!)
………槍を避けた!!そして、彼岸花は容赦ない一撃を槍の背中へと浴びせる。
「よろける地面はもうないぜ。落ちるのはもう、一瞬だ。」
かっこつけて言った台詞は決まり、槍が崖下へと消えていった。