第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
彼岸花の記憶が正しいのなら、昨日の時点で山姥切にそういった素振りはなかった。
つまり、山姥切にはちゃんと鶴丸に見えていた、ということである。
そしてそうだとして今日、鶴丸にそのような変化が訪れたのだとしたら、それはそれで不味いことだった。
冷や汗が頬を伝う。
彼岸花は見方の鶴丸の腕を引いた。
『鶴丸さん、合図をしたら逃げましょう』
小声で鶴丸に話しかける。
鶴丸は彼岸花を見て、こたえる。
『逃げる、って君、いいのか………………いや、俺が言える事じゃあないが』
鶴丸は何処か、迷っているようであった。
『私は逃げることに賛成です。先ずは、現状を整理しないと』
『…………………………わかった。でも、どうやって逃げる』
鶴丸が頷き問いかけてきた所で、彼岸花は刀を納めた。
「?」
相手の鶴丸が警戒し始める。
彼岸花はそっと両手を上にあげた。
その目には、たしかな戦意がこもっている。
「なんだ、降参のつもりかい?」
鶴丸が苦笑いしたところで、片足をあげる。
それで空気は一変した。
つまり、これはかの有名な………あれだ。
「あ、荒ぶる鷹の………」
相手の鶴丸もどうやら知っていた様である。
ならば好都合と彼岸花は一言。
「グリコのぽーず!!」
相手の鶴丸が吹き出した。
「逃げるぞ、鶴丸!!」
「急に呼び捨て!?あ、おい、君!引っ張るな………」
相手の鶴丸があんなしょうもないギャグで吹き出したことはさておき、二人は走り出した。
彼岸花自身、恥も甲斐性も捨て去った身である。恥ずかしくなどない。仮に、グリコが滑ったとしても次の手は考えてあった。
まぁ、恥ずかしくないとは言え、もう二度と会うことのないであろう彼等にだから出来た、というのはある。
ともかく逃げられたのだから、これで万々歳だ。
大通りを抜けた彼岸花達は、そのまま例のボロ小屋に向かって走り続けた。