第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
「呪い、と言えば簡単なんだろうが、何せ全てが奪われた訳じゃないんでな。…時折残った理性が、余計に辛い」
「………どうして、私に殺されようと」
彼岸花は気になっていたことを聞いてみた。その答えがなんであったとしても、覚悟はできていた。
「………………………そうだな、深い意味は、ないんだ。ただ、面識の少ない君なら迷わず殺してくれると思った」
「…………………………そうですか」
それだけであった。
彼岸花の返答も、鶴丸の答えも。
それだけ…………
「でも、今考えてみたら、少し違った答えも見えてきてる」
「……………それは?」
彼岸花が尋ねると、鶴丸は穏やかに笑って、口を開いた。
「君が、俺が好ましいと思える心を持っているからだ」
「心」
鸚鵡のように繰り返してみたら、少し胸の奥がくすぐったくなった。
三日月が居なくなったときに、痛んだ胸の奥。
そこがきっと、鶴丸の言う心なんだろう。
「君は、優しいやつってことさ」
「……………そう、かな」
鶴丸の言葉を胸の奥で飲み込んだ彼岸花は、照れ隠し半分、自信がない半分、で目線をそらした。
鶴丸は愉快そうに続ける。
「そうさ。君なら、主が心を開いた訳もわかる」
鶴丸がそう言った言葉に、彼岸花は一瞬息が詰まるのを感じた。
「………開いてます?」
何とか絞り出した言葉をぶつけてみるが、鶴丸の顔は変わらない。
楽しそうな微笑みのままだ。
「あぁ、寧ろ実感はないのか?」
「いやー、無いですねー」
電器店の店員のような口調で彼岸花は首をかしげる。
それでも鶴丸の顔は変わらないので、彼岸花は少しばかり解らないことが増えてしまった。
(なんか、掴み所のない人だ)
自由、と言えばしっくり来るのだが、それもまた彼の現状を考えれば皮肉な話である。
「鶴丸さん。」
「なんだ?」
此方を笑ってみている鶴丸に、彼岸花はしっかりとその目を見て言う。
「先に言っておきます。私は、貴方を殺せません。殺しません」
「…………………そうだろうな。」
「生きて、何か策を考えましょう。私に協力できるのは、死ぬことでも逃げることでもありません。一緒に戦うことだけです」
既にこの彼岸花。その覚悟はできていた。
今度こそ、救う。
この優しい刀を、みすみすと死なせてたまるか。
彼岸花は、鶴丸の目を見た。