第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
「…………………ここは江戸の白金台。最近歴史修正主義者が出てくるようになった時代だ」
「江戸の白金台!?」
鶴丸が目を見開いて乗り出してくる。
「うん。江戸の白金台」
彼岸花は平然と答えるが、鶴丸にとっては重要な話だった。
「………………江戸の白金台か。もしかすると光忠や大倶利伽羅が喜ぶかもしれないな」
呟いた鶴丸は一つ咳払いすると、元の位置にまで戻った。
「それで?そのあとはどうなったんだ」
「え?あぁ、山姥切さんは出陣の最中だったから、その後に帰ってもらったよ。重要な話はもうないかなぁ」
「そうか……………………………」
鶴丸はかろうじて頷いたものの、心中まで落ち着いてはいなかった。
「しっかし、七面にトリップかー。今日の蟹座の運勢最悪だね」
「七面?」
聞きなれない言葉に鶴丸は聞き返した。
「あぁ、政府が使ってる専門用語(?)だよ。この間………じゃなくて、前に政府に居たときに教えてもらったんだ。」
「ほー。政府ではそういう風に呼んでるのか」
「うん。」
頷いてから、彼岸花は窓の外に視線をやった。
外はもう夕暮れ。もうすぐ夜がやって来る。
夜になるということは、太刀である鶴丸には辛い時間が来る、ということだ。
動くのなら早めに動かねば。
「鶴丸さん。さぁ、私はもう話しましたよ。その腕に関するの話を、聞かせてくださいな。それから……………私に負けようとしたわけも」
声のトーンを落として、彼岸花は聞いた。
鶴丸は彼岸花の言葉に驚いたようだったが、彼岸花の目を見て覚悟を決めてくれたようだった。
「君は、思いの外頭が回るんだな。……………そうだ、俺は、あの時、君に折られるつもりだった」
「夜でも文句を言わなかったのは、そういうわけなんですね。やっぱり」
鉛のようなどす黒く重い何かが心につもる。
そんな彼岸花の心を察するように、鶴丸は目を伏せて続けた。
「仕方がなかった。俺にはもう、死ぬ道が残されていなかった」
彼岸花は答えなかった。
「……………………………解ってる。全部話すさ。君には、ずいぶんと迷惑をかけたからな」
「俺がこいつに初めて会ったのは、主に瓶で殴られた次の日の事だ」
会った、という言い方をした鶴丸は話始めた。