第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
「あのー、すみません。いい加減移動しませんか。…………せめて雨の当たらない場所辺りに」
彼岸花の提案に、鶴丸は彼岸花を見た。
「…………………………いや。俺は、先にやるこ、とが………」
鶴丸の言葉が途切れ途切れになっていく。
「?」
彼岸花が鶴丸の肩を叩こうとした、まさに瞬間、鶴丸の瞳に影がさした。
刀に手をかける鶴丸。
彼岸花は反射的に後ろへと下がり、鶴丸の動きを見る。
しかし鶴丸は、彼岸花が避けたことを見ていたにも関わらず、その場で刀を振るった。
刀は同然宙を斬る。
その後も、見ていると鶴丸の動きは不安定にして、不審であった。
視線は何処か、虚ろな色を宿し、刀に思考というものが感じられない。
(これも、闇落ちの影響?)
けれど、幾つか妙な点があるのだ。
それは、流そうと思えば流す事は容易い気付き。
しかしそれを、彼岸花は頭のなかでまとめた。
気になる点とは、そう。一言で表すのならば、鶴丸の変化についてだ。
先程、屋敷の庭で刀を合わせたときには、確かな剣筋があったし、何より彼自身の思考が感じ取れた。
刀を通しても伝わってくるそれが、今はない。
これでは、まるでーーー操られでもしているようじゃないか。
『鶴丸国永は少し、壊れてしまっているのです』
これは、最初の頃、こんのすけから聞いた台詞。
その言葉の通り、目の前の鶴丸国永は誰が見たって異常だ。
先程までとの差もあって、彼岸花にはますますおかしく見えるのであった。
(ひとまず、こんなところで暴れられたら困る)
過去の世界とはいえ、ここは街中だ。万が一、人にでも見つかれば、ただではすまない。
(まぁ、普通の人間に私達が見えるかどうかは別としてな)
彼岸花は刀を抜いて、突っ込んできた鶴丸を受け止める。
勢いが強く、少し後に押されたが、問題ない。彼岸花は鶴丸に足払いをかけた。
スッ転ぶ鶴丸。受け身も取らずに倒れた彼から、彼岸花は本体を奪い取った。
「!?」
鶴丸の本体を持った瞬間、彼岸花は思わずそれを落としかけた。
(な、なんだこれ)
重い。
凄く重い。
鶴丸の本体は彼岸花の予想よりもずっと重かった。
(……………………あれ?でも、持ってると軽くなる………)
鶴丸の本体に目を落として、彼岸花は目を見張った。