第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
外はすっかり暗くなっていた。
暗い夜空に、ぼんやりと三日月が浮いているのを見て、彼岸花は息を吸った。
本丸の庭に、白い影が立っている。
(そういえば、太刀って夜目がきかないんじゃなかったっけ)
狙ってやった訳じゃないのだが、これは彼岸花が断然有利な状況と言える。
「さて、訳を聞こうか。何故……………」
「おっと、そいつは無粋なんじゃないか?これから殺しあいをしようって仲だ。伝えたいことは言葉より刀で伝えた方が断然いい。なぁ?」
「……………………まぁ、貴方をボコボコにしてから聞き出すのも悪くはないな」
彼岸花が冗談二割で言うと、闇の中で鶴丸が笑う気配がした。
(なんだろう。さっきと感じが違う?)
少し、気配が和らいだ?
彼岸花は首をかしげるが、答えは出ない。
取り敢えず刀を構えて、彼岸花はぐちゃぐちゃな己の心を一旦押し込んだ。
鶴丸と視線を交わしあうこと数秒。彼岸花から踏み込んだ。
……………………………ここまでが数十分前の事である。
彼岸花と鶴丸国永は、現在、雨に打たれていた。
雨が止めどなく降り続いて、彼岸花の髪、顔、服、刀を濡らしていく。
みすぼらしい濡れ鼠となった彼岸花は、横目で同様に濡れ鼠状態の鶴丸国永を見る。
「………………………なんだこれ。何処だここ」
呆然としていた時間に終わりを告げ、ようやく我を取り戻した彼岸花は呟いた。
何がどうしてこうなったのか。
彼岸花と鶴丸国永は今、全く見たことのない場所に立っている。
しかも、過去。
ここは一体何時の何処なのか。
ここまでで得られた情報は、夜戦ではない、雨が降っている、ということだけ。
………それから、結構新しい時代である、という事くらいか。
(……………………いや、訳わかんねぇ)
そもそも、何故過去に飛ばされることとなったのか。
時空ゲートには入っていない。
彼岸花と鶴丸国永はただ、殺しあっていただけだ。
それがなぜ、こんなことに。
思い当たる節はなかった。
ないから、こうして呆然と雨に打たれていた。
鶴丸を見ても、呆然としているだけなので、彼にも心当たりはないものと思われる。