第10章 第九章 七面鳥の呪いですか?いいえ、七面の祝福ですよ
「は、はいぃぃぃ!!??なんやこら、じゃない。なんだこれ」
彼岸花は目を白黒させて驚いた。
刀を合わせる二人。
互いに顔を見合わせているのは同じであるが、こちらから見えている鶴丸国永の顔は微かに笑っていた。
それが三日月のあの表情を思い出させ、彼岸花は僅かに胸の辺りに触れる。
痛みはない。大丈夫。
「君が起きる数分前のことだよ。鶴丸国永が何処からか帰ってきて、寝ている君に刀をおろそうとした」
簡潔な歌仙の説明に彼岸花は頷く事も出来ず、聞いた。
(そういえば、さっき鶴丸国永は居なかったな。)
さっきというのは三日月の夢に入る前の事である。
「………………どれくらい寝ていた?」
不意に気になった事を尋ねる。
「一刻半位だよ」
「……………………………え、なんて?」
「三時間位だよ」
「あぁ………」
結構寝ていたな。なんて感想は出てこない。寧ろ、少し思っていたより短かった。
鶴丸国永を見る。
彼が彼岸花を狙っていた理由は解る。
解るが、殺されるわけにはいかない。
彼岸花は立ち上がった。
歌仙が心配そうな視線を寄越してくれるが、敢えてそれには答えず彼岸花は一歩前に出た。
「……………鶴丸国永」
鶴丸が此方に視線を向ける。
「私が、相手だ。だから、まずはその刀をおろせ」
「…………………敵の言葉を信用するとでも?」
「信用ならんのはこっちも同じだよ。だけど、そうしないと話は進まない」
「…………………………」
鶴丸が燭台切に視線を送る。
刀は、ほぼ同時におろされた。
鶴丸が燭台切にもう一撃加える様子はない。
「外へいこうか。ここだと、やりにくいでしょ。……………お互いに」
鶴丸が彼岸花を見る。
少し間があって、鶴丸は道場の入り口から出ていった。
彼岸花もそれに続く。
ふと、燭台切の横で彼岸花は立ち止まった。
燭台切を見上げる。
「ありがとう、みっちゃん。」
「えっ……………あ、どういたしまして、かな」
少し照れたように笑ってくれたその顔に笑い返して、彼岸花は前を見据える。
「落ち着きがなくて悪いけど、行ってきます」
「……………………うん。頼んだよ」
主語はなくとも、何のことかは承知していた。
「任せて」
安請け合いは己の癖なのだろうと、最近気づいたが、それでも頷く。
彼岸花は歩きだした。