第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
三日月に一撃が入った瞬間、屋敷が勢いよく燃え出した。
彼岸花は地面に降り立った後、三日月の刀を手が届かないよう遠くに払うと、今度こそ膝をついた。
荒い息をなんとか整えながら、胸の傷を弱々しく手で押さえる。
(…………………)
勝ったことを、勝ったと喜べないくらいには彼岸花も参っていた。
空元気すら出てこない。
勝ったと素直に言えるのかすら不安であった。
三日月を見る。
刀を落とした三日月は、二歩三歩と後ろによろけた。
ーーーそして、その足が踏みしめた床が、ゆっくりと崩れて落ちた。
「!!!」
息が、詰まった。
言葉が、空気を得られなかった。
ただ、彼岸花はその時に見たのである。
三日月宗近が、笑っているのを。
「……………………………!!」
三日月!!と、叫んだ。
胸をかきむしる様にして手を離し、三日月の元へと転びそうになりながら走る。
落ちていく三日月の腕を、なんとか掴みとった。
「~~~~~~!!!三日月!」
笑ったままの三日月に叫ぶ。
「…………………小娘、余計なことを」
答えてくれたことに喜ぶことはできなかった。
いっそ、泣いてしまいそうになりながら彼岸花は口を開いた。
「何で、そんなに嫌だったのか!!」
「……………あぁ、嫌だとも。」
はっきりとした返事だった。
「………………………お前に、俺の何が解る。」
三日月は言う。
「貴方が、約束を待っていたことは解っている。」
「いいや、それだけでは不十分だ。俺が待っていた時間の虚しさは、そう簡単にわかるものじゃあない。」
「じゃあ、教えてよ」
彼岸花は言った。
「教えてよ。貴方自身の口から。教えてくれなきゃ、わからないんだよ」
「……………………もう、手遅れだ」
「たかが、夢だろう!!」
ぎゅっと、三日月の腕を握って叫ぶ。
たかが、夢。けれども、腕にかかる重さは本物で、少しずつ汗が額に滲んでくる。
「夢の中で何があっても、大丈夫なんだよ。帰ろう、一緒に」
「帰ってなにがある。」
「それを一緒に探すんだ。」
「約束はもう、果たされない」
「だったら、今度は私と約束しよう。次の約束を」
「……………………………」
三日月は、なにも言わなかった。
彼岸花は、続ける。
「一緒に、月を見よう。」
彼岸花が言い切ると、三日月が顔をあげた。
(あ、)
月、が…
