第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
言ってから、三日月はぎょっとした。
(今、何を言った。)
待っていた。それはそうだ。でも、
(こいつは主じゃない。いや、主はもう居ない。)
何を、まだすがるつもりなのか。
(やめろ。やめろ)
次はこの娘にすがって、そしてまた裏切られるつもりのか。
三日月は立ち上がった。
「……………………今、言ったことは忘れろ。小娘、まだ生きていたのか」
「死にきらない位に丈夫なんですよ」
にやりと笑って見せるが、もちろん強がりである。彼岸花にそれほど元気が残っていないことは、誰の目にも明らかであった。
彼岸花は三日月が刀を抜いたのを見て、目を閉じた。
「月が美しくない理由はね、君の心に月を見ようとする心がないからなんだよ」
「黙れ」
「月が怖いのかな。だけど、月は怖くなんかない。こわいのは、信じることなんでしょ」
「…………………………怖いものか。俺はただ、俺の意思で信じないだけだ」
三日月がどんな顔をしているのか。彼岸花にはわからないけれども、その心は大分わかってきていた。
「疲れた?誰かを信じて生きることに。」
「………………いいや。」
「怖い?誰かを信じて、裏切られるのが」
「いいや。」
「辛いんですか?誰かをまち続けることが」
「…………………………」
いいや。
彼岸花には、三日月の気持ちが少しだけ解る。
誰かを待ち続ける事は、こわいものだ。
だけど、来てくれたとき、その嬉しさもまた大きいものだ。
「三日月宗近。お前が、怖くないと言い張るのであれば、私が相手になってやる。」
彼岸花は目を開ける。
その瞳を揺らした彼岸花は、すっと刀を抜いてみせた。
「っな!」
「夢の中は自由なんでしょ。なら、それは私にも同じことが言えるわけだ。」
自身を片手で構えた彼岸花は、腹をくくって覚悟を決めた。
(何があっても、勝つ。)
連れ戻せば、あとはこっちのものだ。
時間があるのなら、沢山月を見ればいい。
この、頑固な男が頷くその日まで。
「彼岸花、推して参る」
「……………………………いいだろう。来い」
彼岸花は力なく揺れる体に筋を通して、一歩踏み出した。