第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
歩く度に、血が滴り落ちていく。
それが床に染みを作って、追っ手がいたならば簡単に捕まってしまいそうだ。
でも、その心配はない。
この世界にいるのは、彼岸花と三日月のみ。
恋が始まりそうなシチュエーションで、それでも彼岸花は奴を殴るためにさ迷う。
上へと向かうための階段。そこをゆっくりと歩いて、死にそうな自分のか弱さを呪う。
(大丈夫)
「大丈夫」
死なない。
(待ってろよ)
「お前も私も、生きて帰るんだ」
階段が一段踏みしめる度に、ギシギシと音をたてる。
それでも、勇気をもって歩き続ければ。
先は見えてきた。
今度は扉もなにもない。階段の先には、夜空が見えていた。
彼岸花はそして、再び出会う。
三日月は、月を見ていた。
あのときと同じ。月を。
でも、見ていると、涙が出てきた。
「何故、何故こうも……………美しくない」
呟けば、諦めもつくかと思ったのに。
涙は止まらず、流れてきた。
月を見ようと約束したあの時と、今はもう違う。
わかっていたはずなのに、月があまりにもありありと事実を突き付けてくるので、悲しくなってしまう。
(あぁ、もう、俺は。)
「一人なのか」
月が、消えていく。
三日月の夢から、心から。
月蝕の夜は、暗く影を落としていく。
最早三日月の心に、月はない。
「月はね、一人で見ても綺麗じゃないんだよ。」
「!?」
声がした。
あり得ない筈の声が。
振り返る。
すると、そこには、やはり、声の主が居たのであった。
「………………………まさか」
「そのまさかだ。死ねるかよ、こんなところで。」
「………………小娘」
「彼岸花。」
「………………」
「私の名前は彼岸花だ。三日月、約束を代わりに果たしにきた。」
娘が微笑む。
三日月はその言葉の先を、何処か待っていた自分がいることに気がついた。
待っていた。否、待っている。
口を閉じて、三日月は小娘の口が動くのを見ていた。
「一緒に、月を見よう」
たった一言。
それを、聞きたくて、聞けなくて。
聞けなくて、ここまで来てしまった。
「 」
'ずっと、待っていたのだぞ'