第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
痛みに身を悶えさせて、転がるように倒れた。
痛い、と言葉にすることすら出来やしない痛みだった。
頭の奥が痺れて、靄がかかったかのように思考ができない。
息を吸うたびにまた痛んで、彼岸花はもう自分の位置も、三日月の位置も、わからなかった。
立ち上がらないと、前を見ないと。そう思っているのに、どうしようもなく時間が流れていった。
(落ち着け、夢、夢なんだ。現実じゃない。痛みだって本物じゃない。炎だって熱くなかったんだ。こんなもの!)
言い聞かせても頭は揺れるだけであった。
混乱の中、蠢いていると不意に背中が壁に触れた。
壁に支えてもらいながら、立ち上がる。
視界が安定するまでぼんやりと前を見て。
ようやく頭がそれなりに動いてきた頃、彼岸花は三日月を探した。
「俺を探しているのか?」
声が真横から聞こえた。
彼岸花はもう生きた心地もしないで、顔を横に向けた。
「!!」
三日月は鞘に収まった刀の柄に手を当てていて、彼岸花はそこで過去の一期を思い出した。
居合切り。
そう名のつく技の筈だ。
使う者によっては抜く瞬間すら見えないというその技だが、この時彼岸花には三日月が刀を振るう軌道までもが鮮明に見えていた。
そう、見えていた。
ただ、見えていただけである。
避けることなんて出来やしない、死までの小道。逸れることすら、叶わない。
「!!ーーーーーーーーーー!!!?!!」
なんと叫んだのか。彼岸花にはもう、わからなかった。
右肩から左の脇腹にかけて、斜めに出来た裂け目は、彼岸花の命そのものを溢していく様であった。
赤い色をした命が、吹き出して流れていく。
一歩、二歩、と後ろによろけて、そのままたたらを踏んで。…………………彼岸花は倒れた。
ゴツン、と自分が地面にぶつかる音がしたけれども、彼岸花にはそれがなんの音なのかすら解らない。
喉に熱いものが込み上げてくる。
たまらず、それを煩わしいと吐き出すと、それは赤い塊であった。
服にあたったそれは弾けて、真っ赤な染みをつくった。
三日月が歩いてくる。
「残念だったな。小娘」
「………………み、かづ…き」
「まぁ、ここまでしぶとく続いた仲だ。逸そ、地獄までも共に行こうか」
「…………ふざけ、んな。わた………し…は、てんごく、だ」
「ははは。そうか、それは残念だ」