第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
彼岸花はその声に何処か寂しさを滲ませて、そして脳裏には懐かしい記憶を描いて。言った。
三日月の瞳が揺れる。
そして瞼を閉じると、何処か震える声で言った。
「いるのだろうな。俺の中にも、お前が言うような俺が。」
「じゃあ、」
「だがな、それすらも最早過去の怨霊に過ぎん。」
三日月が目を開ける。その目には、真っ黒な闇が広がっていた。
「全ては終わった。終わったのだ。だからもう、過去も未来もここにはない。」
刀を構えて、三日月はいう。
「……………俺を連れ戻すのだったな。やってみろ、戻った後、俺は皆を殺す。」
「…………………それは、三条の刀もか」
「あぁ。」
頷いた。頷いた。だから彼岸花は、息をひとつ吸って叫んだ。
「こんの、大馬鹿者が」
刀と素手。どちらが優勢かは言うまでもないが、きっと自分に刀があっても状況はたいして変わらないだろうと彼岸花は思った。
「っ!ってぃ!」
軽い声と共に三日月の懐へと蹴りを入れる。
だが、それはあっさりと避けられて、頭上から刀がおりてくる。
単純な動きのそれを避けて、彼岸花は返しに一撃を喰らわせようとした。
しかし、失敗。
「お前は、それでいいのか。愛を忘れていないのなら、もう一度信じることは出来ないのか!?」
「すがったところで、過去には戻れん。慰めなら、俺は要らない」
「馬鹿かよ!いや、馬鹿だよ!壊したって、何も変わらないのに………!!」
どれだけ叫んでも、三日月の目は変わらなかった。
(どうして、伝わらないんだよ)
何度も何度も繰り返し思ったこの言葉。今日も変わらず、彼岸花は歯を食い縛った。
「もう、他はな、ないんだ。小娘、お前が何をしようとも、過去は過去。主が死のうと、変わろうと、おんなじだ」
「だったら殺す意味はないだろうが。」
「ある。殺すことでしかもう、俺は満足できない」
三日月の刀が彼岸花の肩におりてくる。
避けようとしたら、足下の瓦礫に足が引っ掛かった。
「!?はっ…………?」
純粋な疑問。
足が、横にいけない。
刀はそして、彼岸花の腕を斬ってしまった。
「あ、あぐあぁぁぁあああ!!!!」
彼岸花は肩を押さえて、ないた。