第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
意識がふっと戻ってきた。
彼岸花は一瞬、ここがどこなのか考えて、気付く。
ここは、夢の中なのであると。
しかも、他人の夢だ。
上半身を起こして、彼岸花はまず目の前の屋敷に目がいった。
本丸じゃない。見たことのない、とにかく大きな屋敷。
それが、燃えている。
見渡す限り、目の前の屋敷以外には何もなかった。
本当に何もなかった。
空も、果ても何もない。ただ、真っ暗な闇が広がっている。見ると、地面もなかった。
地面がないのに、何故自分と屋敷は落ちないのか、等と問われれば直ぐに詰まってしまう。わからないが、落ちないのだ。
不思議な気分であった。
しかし、暫くすると彼岸花の中には成功した喜びが込み上げてきた。
じわじわ広がってくる感覚に身を包まれながら立ち上がる。
なにもない場所ではあったが、立つことも出来た。
体を確認する。大丈夫、五体全て健在だ。
「行こう。」
声も出た。
彼岸花は歩き出した。
目指すは目前の屋敷。
燃えていたが、屋敷の中は別に熱くなどなかった。
なので、彼岸花は滅多にない機会を利用して炎を間近で眺めていた。
「熱くねーな。うーん、不思議」
呟きながら、回廊を歩くこと数分。
目前に炎に包まれた階段が見えた。
「………………………いや、行こう。」
迷うことなどない。
ほんの少し、か弱く沸いてきた恐怖を押し潰して彼岸花は踏み出す。
一歩、二歩、と進んで遂に炎にはいった。
熱くはない。
しかし、身体の中に入れても大丈夫かどうかは調べていなかったので、息を止めて早足でのぼった。
階段の踊り場で折り返し、更に上る。
上って上って、結局途中で息を吸って、また上って。
どれくらい上ったのか、数えていたところ十階は越えた。
それでも、まだ終わりは来ない。
もしや、何かのループにでもはまったんじゃないかと彼岸花が心配し始めた時、
「…………………………………!」
先に終わりが見えた。
階段の上に、頑丈そうな扉があるのだ。
彼岸花は、瞼の裏に一瞬見えた三日月を描いて、瞬きをしてから上った。
階段が終わって、扉がもう手に届く場所にあった。
手をそっと当てると、大きく扉が開いていく。
「………………………………………………どうも、こんばんわ。N○Kの集金でーす」
三日月は、そこにあった。