第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
彼岸花は言い切ると、三日月宗近を長谷部の手から奪った。
「!あ、おい!!」
長谷部が手を伸ばしてくるが、それはもう彼岸花に睨まれただけで落ちるような力のないものであった。
三日月宗近を抜いて、刀身を見る。
彼岸花はそっとどころでなく語りかけた。
「いい加減にするのはなぁ、お前も一緒なんだよ。何時まで、逃げてるつもりだ。可能性(私)を受け入れろ。そして、帰ってこい。」
何度も何度も、祈るように、怒るように、喚くように、囁くように。
そして、その時は来る。
「!」
ぐらり、と意識が傾く感覚。
からだが、落ちていくような瞬間。
彼岸花は、瞼の向こうに、三日月を見た。
彼岸花の目が、開かない。
それを見て、石切丸は成功したのだと理解した。
彼岸花の言葉は、この道場にいる皆に届いていた。
先程まで怒りと自暴自棄に震えていた長谷部も、今は大人しくなっている。
彼岸花の体がゆっくりと倒れる。
「おっと」
それを受け止めて石切丸は、少女の顔にかかった髪を払った。
(頼んだよ)
そっと思って、道場の中を見回す。
言葉は、届いた。
だから、もう、後はこちらの問題だ。
各々の心の中までは読めないけれど、祈ることは出来る。
どうか、この本丸が救われますように。
(私も、精一杯つくそう)
「石切丸、三日月は」
「信じて待とう。彼も、三条の刀。自らの心の間違いくらい、正せなくては困る。」
「そう、じゃな。信じて、待とう。」
「小狐丸。私はね、三日月の事も、そして……………彼岸花、のことも。信じているんだ」
「……………………………………………………あぁ、わかっておる。」
「わかって、おるわ」