第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
「三日月宗近………」
彼岸花が思わず呟くと、数名の刀剣が振り返った。
敷かれた布団。しかし、その上に人の姿をした三日月はいなかった。
三日月の本体を抱える小狐丸と、それを囲む岩融、今剣。
今剣の目には、涙がうっすらと溜まっていた。
人の姿を失ってしまったというのは本当だったんだな。なんて、妙に冷静に思ってしまってから彼岸花はしゃがみこんだ。
「石切丸さん。」
「………………あぁ、わかっている。」
石切丸が重く返事を返した。
彼は、彼岸花の隣に同じくしゃがむと、三日月を覗きこんだ。
「三日月、三日月。君は、全く手のかかる兄弟だよ。………………聞こえているのなら、答えてくれ」
そっと三日月に触れる石切丸。
目を閉じて、彼が何を考えているのかなんて、彼岸花にも、他の誰にも解りはしない。
それは、彼の世界だからだ。
彼の中の三日月宗近。そいつは、はたして答えてくれるのか。
暫く過ぎた。
石切丸がそっと目を開ける。それで、彼岸花にはわかってしまった。
「……………………………………駄目だ」
ポツリと呟かれた言葉には、逸そ無機質な響きすらあった。
彼岸花は、それを聞いて三日月を見た。
「………………聞こえて、いないのか。」
「………………………いいえ。きっと、聞こえています。」
残酷にも彼岸花はそう答えた。
聞こえている。彼岸花にはそう思えた。
「小狐丸さん、三日月宗近を貸してください。」
彼岸花が手を向けると、小狐丸が目を細めた。
「どうするつもりだ。」
「助けます。」
きっぱりと彼岸花は言った。
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
間があった。
彼岸花は、小狐丸から目をそらすことなく、じっと、見つめてくるその目を見つめ返した。
「……………………………………………………しくじるなよ。」
「!」
パッと顔を輝かせて彼岸花は喜んだ。
三日月宗近を手渡される。
だが今度はそれに横から出してくる手があった。
彼岸花はそちらを見て、その人物を認識し、思わず舌打ちしそうになった。
「へし切り、何をする」
小狐丸が抗議する声も無視して、長谷部は彼岸花を睨んでいた。
「何をする気だ」
彼岸花は、舌打ちした。