第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
若干怒ったように言われて彼岸花は少し肩を落とした。
「駄目だ、ネタが伝わってねぇ。」
「何のネタだい。」
「井上⭕水は最早伝わらない時代か。悲しいもんだ」
彼岸花は哀愁たっぷりに言うが、このままでは話の先が見えないので、そろそろ自重することにした。
「まぁ、いいや。……………えっと、それで?なんで急に夢」
「結論からいうと三日月宗近の魂は現在夢を見ているからだね」
「そもそも、夢の中に入れるもんなんすか」
そこが一番気になる。
「石切丸や太郎太刀が言うには、古くから夢に入る術はあったということだから、不可能ではないらしい」
「…………………嫌々、だけど夢って………」
「そんなに信じられないのかい。僕らは刀のくせに畑仕事をしているんだが」
「いや、まぁ、言っちゃえばこの本丸自体がビックリ箱だけども……………なんつーか、ファンタジー過ぎて信じるのが恐い。その内、セーラー戦士になれとか言われそうで」
「セーラー戦士?」
歌仙が首をかしげて尋ねてくるが、彼岸花は妙な笑みを浮かべるだけで答えなかった。
「話を真面目な方に戻すけど、百歩譲って夢の中に入ったとしてどうするの?」
「連れ戻せばいい。三日月宗近が帰りたいと思えば、その意思によって帰れるらしいから」
「簡単に言うけど、その思わせるのが一番難しくないすか」
「まぁ、そうだろうね」
話すうちに彼岸花は何だか嫌になってきた。
今まで散々色々な事をしてきた彼岸花ではあるが、夢の中というのは中々に度胸がいる。
(……………………いや、つーかなんで行く気満々なんだ私)
思わず冷静になってハッとするが、取り敢えずこの話の信憑性がわからなかった。
「一先ず、私も三日月宗近の様子を見に行った方がいいのかな」
「というか、行かないつもりだったのかい」
「………………………………………まさか。行くつもりですよ」
「蚯蚓を見ながら言うのはやめてくれ」
彼岸花の視線の先にいた蚯蚓を見て、歌仙は顔をしかめた。
「それで、何処にいるんです?手入れ部屋?」
「いや、今は道場に運ばれているよ」
「了解」
彼岸花は行くことにした。