第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
獅子王は一方的に喜ぶ彼岸花をしばし呆然と見ていたが、やがて喜びが伝染したかのように微笑んだ。
「なんだよ、ったく。喜びすぎだろ」
口ではそう言うけれど、顔は微笑んだままであった。
彼岸花は憎まれ口にもならないその言葉に笑った。
「君は偉大な刀だ、獅子王君」
「何処の軍隊だ」
「今度表彰状つくるね。表彰台もつくってあげる」
「いや、流石にいらねぇよ」
「優しい男、素晴らしいね!色男さん!」
「…………本当に思ってんのかよ」
苦笑しながら獅子王は突っ込んでくれる。
彼岸花は、そんな獅子王とのやり取りをそれから続けて、事態はゆっくりと回っていったのであった。
「はぁ?三日月宗近が目を覚まさない?」
その話を歌仙から聞いたのは、ようやく落ち着いてきてあれから三日が経過した日の事であった。
畑仕事をしていた彼岸花は、水やりを続けながら歌仙の話に耳を傾けた。
三日月宗近が意識を失った理由は知っている。というか、己が犯人だ。
しかし、奴は彼岸花の手によってきちんと手入れ部屋に放り込まれた筈である。間違っても痛む場所などは無いはずだ。
「怪我は治ってるんだけどね、何をしても意識を取り戻さないんだ。」
「ふーん。………あ、鼻は摘まみました?あれ効果的らしいですよ」
「そんな乱暴なことをしたら目を覚ました後、また問題になるだろう」
「それもそうか。だけど、目を覚まさないんだったらどうにもならないじゃないですか」
彼岸花の言葉に歌仙は確かに、と頷きかけたがやはり駄目だと首を横にふった。
「確かにそうだけどね、意識を取り戻さないのは、彼の魂に何かがあったからだと考えられているんだ」
「ほー。つまり、肉体に何かをしてもちょっとやそっとじゃ起きないと」
歌仙が頷く。
「だから、今、三日月宗近の夢に入る方法を探しているんだ」
「……………………………………………………はい?」
突然のメルヘンに彼岸花は思わず手を止めて聞き返した。
夢の中?………夢の中へ夢の中へ、行ってみたいと思いませんか~うふっふ~。というやつか?
「さ、探し物はなんですか?」
「?三日月宗近の魂だ」
「見つけにくいものですか?」
「そりゃ、そうだろう。」
「鞄や机のなかは見ました?」
「有るわけないだろう。そんなところに」