第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
室内に沈黙がおちた。
娘が次の物を投げる姿勢のままで止まっている。
その何か嫌なものを飲み込むような顔は、認めたくない事実を認める小娘にとっての免罪符であった。
獅子王の行動に彼岸花は内心感謝した。
「わかるだろう。誰もが、お前を嫌ってる訳じゃない。今も、そう」
「……………そんなこと、言ったって…」
「貴方は、汚くなんかない。」
「!!」
彼岸花の言葉に、小娘の手がおちた。
呆然とするその顔に最早気取った生意気な娘は居ない。
彼岸花は、そっと小娘の手を取った。
「汚くなんてない。誰かを傷つけてきた手だけれど、こうして掴むことはできる。」
小娘と目が合う。
彼岸花はしかと頷いてみせた。
だが、小娘は直ぐに手をほどいた。
「小娘………」
「やめて。今は、出ていって」
それだけであった。
彼岸花は、うんと頷いて廊下に出た。
一度だけ、襖を見た。
そして、また背を向けて廊下を歩く。
「彼岸花様!!」
こんのすけの声がした。
縁側に座っていた彼岸花が見ると、こんのすけが鳴狐に抱きかかえられている。
「あらら、狐が二匹や」
間抜けな感想を一言もらして、彼岸花は隣に座った鳴狐を見ている。
じっと、見ていたらやがて鳴狐にこんのすけを押し付けられた。
「うわっ、どうしたん?」
「彼岸花殿、あまり見つめないでください。鳴狐が照れておりますゆえ」
「あぁ、そっか人付き合いが苦手なんだっけ」
「えぇ、そうなのです。困ったものですなぁ」
「…………今の会話、人付き合い関係ありますか?」
こんのすけに言われて彼岸花も一応考えてみる。
人付き合いと照れ屋は関係あるのかないのか。
「……………答えは皆の心の中にあるよね」
「なに悟ったような顔をなさっているんですか」
こんのすけが喋る理由(原理)も皆の心の中にあるのです。
「そんなことよりも、審神者様はどうでしたか?」
「そんなことよりて………………どう、というか何時も通りだよ。」
彼岸花はそう答えた。
上手くいったと言えば、そうだし。
何もなかったと言えば、そうだ。
解釈は人によってそれぞれであるが、彼岸花は期待してもいいんじゃないかと思っている。
「……………良い方に、転がればいいな」
この彼岸花の呟きが、後に真実となるのである。