第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
「こんのすけ!獅子王達は?」
「なんと!既に知っておられましたか!それならば、早く来てくだされ!!」
「何があった!」
彼岸花が尋ねると、走り出そうとしていたこんのすけが振り返り言った。
「三日月宗近が、審神者様を殺害しようとしました!!」
彼岸花が開け放った襖の先、目に映った光景。
本体である刀を抜刀し、それを降り下ろしている三日月宗近。
刃は間違いなく小娘へと下ろされており、小娘が驚いたような顔で目の前を見ている。
傷ついたような顔をする小娘は身勝手きわまりないが、それでもそんな顔が切られていないのは獅子王のお陰だった。
三日月宗近と小娘の間。そこに割り込んだ小柄な存在。
その存在は、既にボロボロで。
彼こそ獅子王である。
獅子王が、小娘を守った。そう理解すると彼岸花は叫んだ。
「祇園精舎の鐘の声!諸行無常の~?」
三日月と獅子王、小娘にその他もろもろが彼岸花を見る。
彼岸花は畳を蹴って、腰に下げてあった本体を構えた。
一瞬で間をつめ、三日月宗近の前で更に地面を蹴っての跳躍。
頭上からの一撃を、ここで決める。
「響きありっ!!」
刀は二つとない。
だから、三日月は獅子王を足で軽く突き飛ばし、彼岸花の一撃を受けた。
「っ!痛ってぇな!!」
「………」
「獅子王!」
突き飛ばされた獅子王は、背後にいた小娘を潰さないように受け身をとっていた。
彼岸花はそれを確認してから、三日月を見る。
「おいおい。あんな色男突き飛ばすなんて、罪なお人ですこと」
刀を合わせたまま、逸そ顔が触れてしまいそうな程の距離で彼岸花はニヤリと笑った。
三日月宗近、よりにもよってのタイミングで録な事をしてくれない。
「娘。お前か」
「私だ。何のつもりですかね、これは」
「お前こそ、何をしている?獅子王を傷つけたのはあの愚かな人の子だ。」
彼岸花は、わかっていたと内心覚悟を決めなおす。
「ふざけんな。傷つけたのはお前も一緒だ」
彼岸花は先にそれだけ言って、続ける。
「小娘を殺したって、なにも変わらないよ」
「変わる。少なくとも、もうあの人の子に苦しめられることは無くなる。」
「そんな底辺的な考えだけでこんなことしたの?」
彼岸花が言うと、三日月の目がスッと細くなった。
同時に、彼の目の三日月が消えた。