第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
虐めというものは、虐めている側の惨めさから来るらしい。
虐めている人間が最も恐れているのは傷つくことであり、臆病者だからこそ他人を否定することでしか自分を生きさせる事ができないのだとか。
それを知ったとき、悲しくなったのを今は覚えている。
可哀想にと言えるほど自分は立派なわけではないが、それでも、悲しいものだ。
小娘の行動が、もし過去の記憶から来ているのならば、自分はどうすればいいのだろう。
(いや、だけど可能性はある)
小娘がここに来た頃。彼女はただ臆病な少女でしかなかった。
根本で辛い記憶に悩まされていようとも、それを表には出さないだけの意地があったのだろう。
そして、今剣や他刀剣達の反応からしてみても、ある程度彼女は優しかったのではないだろうか。
それを、どうにか引き戻すことができれば………。
「………というわけだよ。」
彼岸花の言葉が終わる。
しかし、喋りだすものはいなかった。
それもそうだ。彼岸花だって、何を言うことも出来やしなかった。
辛い記憶。誰にだってあるそれは、ある意味で宿敵だ。
「………………………………そっか」
長い沈黙。それを破ったのは獅子王。
獅子王は彼岸花を見て、迷ってから言った。
「彼岸花は、その話をどう思った?」
何故そんなことを聞くのだろうか。
彼岸花は疑問に思ったが、答えた。
「……………酷い話だ、って思ったよ。」
ありきたりなことを彼岸花は言った。
「家族は、優しいものだと思ってたから。そう信じていたから」
彼岸花は目を閉じた。
うっすらと鮮明に残る矛盾の記憶。そこでは、彼岸花に不幸などなかった。
何時だって、優しい人に囲まれて、楽しいときを過ごして。
「私は、我が儘なんだろうね。小娘の話を聞いても尚、救いがいることを願っている。勘違いなんじゃないの?何か、すれ違いがあったんじゃないの?って、ずっと認められない自分がいるんだ。」
そんな不幸が、この世界にあるのかと。言っている自分がいるのだ。
この、場所にいてもまだ。
「………不幸はさ、あるんだよ。誰かを思う反面、ずっと」
獅子王が声を低くして、言った。
そんな獅子王の声も様子も初めてのことで、彼岸花は目を丸くした。
「俺もあったんだぜ。………けど、彼岸花が不幸じゃなかったのなら、良かった。」