第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
沈黙をおいて立ち上がったのは次郎太刀。
「そういうことならアタシは出るよ。話が終わったら呼んで」
「次郎」
太郎太刀が止めるが、彼岸花は止めなかった。
「いいんですよ、太郎さん。聞きたくないのなら、それでも。」
太郎太刀が振り返った。
「自分の好きでもない人の話なんて、正直ざまぁ見ろと思う反面、聞いてて苦しいものです。だから、無理強いする意味も筋合いも理由もない。」
これは本心であり、嫌味でもなんでもない。
それだけは勘違いされないように彼岸花は言った。
次郎太刀が彼岸花を見て頷く。
彼岸花も頷き返して、他に出るものがいないことを確認してから、口を開いた。
「実は………」
「あ、彼岸花殿!少々お待ちくだされ!」
「うん?」
鳴狐の狐が突如割り込むように口を開いた。
「その話なのですが、聞けるのなら他の方々も呼べばいいのでは?例えば、大倶利伽羅殿等、相方(?)である燭台切殿の変わりに聞いてもらえばよいと思うのですが」
「くりちゃん聞きたがるかな?………まぁ、人選は兎も角として確かに、短刀の子達の中でも聞ける人いるかもしれないしね。」
「そうでしょう!ならば、我々がひとっ走り聞いて参りますよ!………走るのは鳴狐ですが」
「じゃあ、宜しく頼むよ」
彼岸花はそう言って、鳴狐を送り出した。
「わーお。くりちゃん、来てくれたんだね」
「妙な呼び方をするな」
まさか来てくれるとはー。なんて言いながら内心ほっとする。
確かに、小娘の話は聞いてて気分のよいものではないが、それでも主の話なのだ。一応は、耳にいれておいてほしい。
………それが、いつか相手を理解する種になる可能性もあるにはあるわけだし。
また、石切丸、青江、源氏兄弟も来てくれた。
それに対し、短刀の方は結構まばらであった。
まぁ、それについては言及しないことにする。
「じゃあ、今度こそ話すよ。」
彼岸花は口を開いた。
話すのは、政府で聞いた審神者の全て。
これを誰かに話すこと。その意味の重さはわかっている。何時か、咎められる時が来たとしても後悔はしない。
嫌いだから、嫌がらせで話すんじゃない。
遅かれ早かれ、彼等は知らなくてはならないのだ。
この地獄の根本にある人の苦しみを。