第9章 月蝕の三日月。命のない罪。つまりは矛盾
政府から帰ってきた彼岸花。
そんな彼女は今、本丸前にて立ち尽くしていた。
頭を下げて、珍しく俯く。
沢山、言いたいことが出来た。言えやしないけれども。
落ち込んでいると言われれば、確かにその通りだ。
今この瞬間そのものが、彼岸花からしてみれば卑怯な奇跡だ。
(いや、それでも『よい』、と言ったんじゃないか)
目を開けて、本丸の門をそっと潜る。
「うぃーっす。ただいま」
適当に言いながら自室の襖を開けると、案の定結構の人数が揃っていた。
「あ、は、早いな」
妙に吃りながら獅子王が言う。
「なんすか。そんなに焦って」
彼岸花は黒子をさっさと取っ払ってどかりと腰を下ろす。
「いや、別に………あー、それでどうだった?つーか、何持ってんだ」
「あ、これ?お饅頭。こし餡だけど」
「ふーん。」
「食べなよ。私は、あっちで貰ったから」
彼岸花が言うと同時に、歌仙が隣に座ってきた。
「その様子だと知りたいことは知れたのかな」
「うん。大丈夫だったぜ」
頷いて、歌仙に饅頭を一つ差し出す。
「どの様な話をしたのですか?」
珍しく部屋に来ていた太郎太刀が問い掛けてきたので、彼岸花は少し考えて言った。
「別に、面白い話じゃなかったよ。まぁ、解っていたけど」
「ブラック本丸であることは伝えたのですか?」
鳴狐(狐)からしてみれば、それは何てこともない普通の質問だったのだろう。
しかし、彼岸花はここで確実に詰まってしまった。不自然な動きを見せてしまった。
「……………言えなかったのかい?何か、嫌なことでも言われたのか?」
歌仙の言葉は優しい。
だからこそ、彼岸花は首を横に振った。
「……………………知っていたよ。政府は」
彼岸花は言った。
この本丸なんて、幾つもあるうちの一つでしかない。そう、前に考えていたが本当にその通りだった。
『ブラック本丸のメンテナンス何て………』
知っていたのだ。あの男は。
覚悟があった彼岸花とは違い、室内に落ちた静寂は何も知らなかった皆のショックを表していた。
「……………そうだったのですか」
狐が寂しそうに言った。
「でも、知れたことはそれ以上のものだったよ。約束する、必ずこの本丸を助けるよ」
彼岸花の言葉に、男共が顔をあげる。
彼岸花はもう、ただの刀なんかじゃない。
大丈夫。