第8章 第七章 饅頭ならばつぶ餡派、咲くのなら花の下
「……………小娘が壊れていたこと。知ってたんですね」
彼岸花は言った。
「知っていたうえで、我々は彼女を審神者にしました。」
男は悪びれることもせずに言った。
「それは、何故」
「僕達のためですよ。都合がよかったんです」
その言葉に、彼岸花はついに自分の中の何かが切れるのを感じた。
鈍い音が部屋に響く。
彼岸花が、男の頬を殴った顔だ。
「っ、いたたたた。普通、女の子だったらグーじゃなくパーですよ」
「お前にはグーでも足りないわ。大馬鹿野郎」
「偽って適当なことを言わないだけ、僕はいい人ですよ。」
「偽ってたらグーでタコ殴りだね。」
「はははっ。あー……………正直ね、歴史修正主義者よりも貴方達の方が厄介ですよ。審神者だって、問題ばかり起こしてくる」
男は眼鏡が割れていないかチェックをいれて、ぐったりとソファに身を投げ出した。
「身内と疎遠の人の方が、楽なんですよ。」
「そりゃそうだろうね」
「彼女を、どうするつもりなんです」
「殺さないし怪我もさせないよ。ただ、誰かを傷つけるのをやめさせるだけ」
「ブラック本丸の救出なんて、僕らでも困難ですよ」
「だけど、目を剃らすわけにはいかない。」
「……………他の刀剣達とは仲良くやれてるんですか」
「うーん。普通?話の通じる人もいれば、全くもって聞く耳なしの人もいるよ」
「そうですか。………貴方を審神者にすべきだったかもしれませんね。」
男が天井を見ながらいった。
「何いってんすか。刀剣は主になれないよ」
「………そう、でしたね。世迷い言をいいました。」
「ほんとだよ。」
コーヒーの缶を机の上に置いて、彼岸花は外を見た。
青い空。何一つ問題なんて無いような空。
けれど、世の中は問題だらけだ。
人生も、問題だらけだ。
「あ、そうだ。今更ですけどお菓子食べます?お饅頭」
男が腕を伸ばして背後の棚から箱を取り出す。
十五個入りタイプの饅頭は、一応開けてはあったものの、何一つ手はつけられていなかった。
「美味しいんですか?大分残ってますけど」
つーか、手がつけられてないんですけど。
「美味しいですよ。こし餡で」
「残念だったなこわっぱ。私はつぶ餡派なのさ。まぁ、貰っていこう」
「箱ごとですか」
「どうせ沢山あるんだろ。ケチケチすんなや」
「貴方のテンションって何処から来てるんです?」
「大分」
「なんで」