第8章 第七章 饅頭ならばつぶ餡派、咲くのなら花の下
室内に沈黙が落ちた。
彼岸花は缶コーヒーを潰さんばかりの勢いで握り、何を言うべきか本当に考えた。
「それは………つまり…………………どうして」
「引き取ったんです。覚えていませんか。貴方が、言ったんですよ。」
「良い、と」
「!」
彼岸花は思わず立ち上がった。立ち上がって、腰にさしていた本体をソファに投げ出す。
ソファは無駄にふわふわで、痛くなんかなかった。
いや、痛いわけがなかった。
「………落ち着いてください。覚えていないのなら、話しましょう。………それを、聞きにきたのでしょう」
彼岸花は泣きそうだった。
だが、それを飲み込んで話を聞く。
聞いてる内に喉が乾いて、結局コーヒーを開けた。
話は、彼岸花の残った記憶通りだった。
缶コーヒーが空になる。
彼岸花は、小娘の事を口にした。
「恵、か。似合わない名前。あいつは、どうしてああなんです?」
「おや、それも聞くんですか。建前だと思ってたんですが」
「知っていると有利なことがあるんだ。」
彼岸花は取り繕うこともせずに言った。
刀剣が、主に対して有利をとろうなんてのは異常なことだ。ことだが、男はそれを咎めることはしなかった。
「彼女の過去、そうですね。包み隠さず言うのなら、彼女は現在天涯孤独の立場です。」
「一人なんだ。何となく予想できてたけど」
「彼女の両親は一度離婚しており、彼女は父親の方に引き取られました。」
男の声は淡々としていた。
「しかし、この父親は妻に捨てられるだけあってひどい男だった。貧乏生活を強いられた彼女は、やがて荒み母親の愛情を求め、母親の元へと父親を捨てていきました」
「けれど、母親には既に新たな男がおり、疎まれた彼女は何とか共に暮らすようになったはものの、母親に子供が出来た事をきっかけに虐待を受けるようになった。」
彼岸花は、黙ってそれを聞いていた。
「最悪の日、彼女は母親の男に強姦されました。十四歳の時の話です。」
「……………」
「驚かないんですね。………彼女にとって、何よりもショックだったのは男に傷つけられたことじゃあない。母親がそれを見ていて尚、無関心だったことです。」
カッキッ、と音をたてて手の中の缶がつぶれる。
「母親の愛情がもう既に干魃していたことを理解した彼女は、そこで終わりました。」