第8章 第七章 饅頭ならばつぶ餡派、咲くのなら花の下
「行ったな。………あー、今更だけど俺も行きたかった。」
「それは、演練にかい?それとも、彼岸花と一緒に政府へと乗り込む事かい?」
「歌仙………なんか、変わったか?」
不思議なことだが獅子王はこの時、初めて歌仙が彼岸花の名を呼ぶのを聞いた気がした。
歌仙の顔を見ると、妙に元気だ。
「さぁ。どうだろうね」
「そうか」
「ただ」
「…………………なんだよ。」
「君の言っていたこと。ようやく同意できるよ、確かに…………………」
歌仙のその言葉に、獅子王は目を丸くして開いた口が塞がらなかった。
『彼女は可愛い』
歌仙が言ったとは思えない台詞だ。
可憐、綺麗、麗しい、魅力的、歌仙ならば、もっと違うことばを使うと思っていた。
いや、そういう問題じゃない。
(同意できるよ、って………嘘だろ……………)
やはり今朝様子を見に行かせたのがいけなかったのか。あの歌仙がああなるなど相当の事があったと考えて違いない。
「お、い。歌仙!?」
呼び止めるが彼は止まらなかった。
立ち尽くす獅子王は、そこでハッとする。
慌てて他の見送りメンバーを見たが、もう遅い。
獅子王はなんだこれ、なんだこれ。と内心呟きながら頭を必死に回した。
「そ、そんな顔で見んな!!」
思わず叫んでしまったが、すると更に回りからの視線は生暖かくなった。
「まぁまぁ、旦那。いいじゃねえの、わかくって」
「待てこら。俺はこれでも平安太刀で………」
「やっぱり、獅子王さんも好きなんだー。三角関係?あ、でもいちにいがいるかなぁ」
「待て、一期もなのか!?」
乱の思わせ振りな発言に思わず食いついてしまう。
「どうだろう。一兄に確認したことないから………ね。」
ニヤリと微笑まれて、獅子王はからかわれていることに今更だが気がついた。
「……………」
(それなら)
逆にあっと言わせてやろうじゃないか。
「ま、それならそれで、負ける気はないけどな」
これは宣戦布告である。
恋と呼ぶには、確かに自分は汚くなりすぎた。
けれど、それでも、あの顔を一番近くで見たいと願ってしまったのだからーーー仕方がない。
彼女の道を手伝おうと思った。
その時の立ち位置はまだ、決まっていない。なら、求めてもいいんじゃないだろうか。
(可愛い、か)
言ってしまった。
出会えてよかったと彼女は言った。
その通りだ。自分だって、後悔していない。