第8章 第七章 饅頭ならばつぶ餡派、咲くのなら花の下
歌仙いわく、この巫女の装束は小娘が来たばかりの頃に使っていたものらしい。
現在はサイズがあわなくなって箪笥に仕舞いっぱなしなのだとか。
彼岸花は小娘小娘と読んでいたわりに小娘より小柄なので、サイズはあうだろう。
髪を結って巫女の装束を来たら、後は黒子(顔につける黒い布)を着用して終いだ。
彼岸花が慣れない巫女の装束に苦戦しながら支度を終えた時、襖の向こうから声が掛かった。
「彼岸花。起きているかい」
「歌仙さんか。起きてるし、準備も終わってるよ」
声で歌仙と判断した彼岸花は返事を返した。
「っわ!」
襖を開けた歌仙に黒子を着用したまま視角から飛び出すと、無言で眺められてしまった。
「反応薄っ。」
「遊んでいる場合じゃないからね。というより、君。その髪型はなんだ。」
「え、ポ、ポニーテール」
「髪質を誤魔化すのならもっと編み込むべきだ。櫛と紐を貸してくれ」
「え………」
「早く。」
「はい」
歌仙の催促に彼岸花が言われたものを差し出すと、黒子を外されさっと髪をほどかれてしまった。
「全く。僕が見に来なかったらあんな髪で出るつもりだったのかい。」
「あんな、って。割りと頑張ったんだけどなぁ」
「服にあっていない。もっと、細かくした方が可憐で清楚に見える。」
「雅に見える、じゃないんですね。」
「一番雅に見えるのは髪をほどいた状態だからね。君の髪質は僕も気に入っている」
「あ、あら。デレた」
彼岸花は軽く返すが、内心なんだか落ち着かなかった。
思えば、誰かに髪を弄られるなど初めての事である。
(櫛とおすの上手だなぁ)
やることもないのでそんなことを考える。
歌仙に髪をすかれるのは正直気分がよかった。
それは恐らく、彼の手つきが何処までも真剣だからだろう。
(普通にしてれば審神者の女の子にもモテるんだろうなぁ)
少し口うるさい所はあるが、手先は器用だし綺麗なものが解るし。女性に対しても優しい。
(いい人なんだよな)
上手い言い方が解らないが、歌仙の良さが友人として誇らしかった。
彼岸花が大人しくしていると、不意に歌仙がこのようなことを言ってきた。
「そういえば、知っているかい。髪に触れられても大丈夫な相手というのは、少なからず好意がある相手だけなんだよ」
不意の言葉。彼岸花は、その意味をはかりかねた。