第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
助けられた。
馬鹿みたいだが、そうとしか思えない。
唖然とする彼岸花を他所に、亜種は検非違使を殲滅していった。
先程までの敵意はどうしたのか。彼岸花だけでなく、どの刀剣にも手を出そうとはしない。
それどころか、危なければ助け、此方を気にするような素振りすら見せた。
彼岸花達は、これはどういうことなのかと互いに顔を見合わせた。
戦況が狂っていく。彼岸花達の優位な方に。
そして、間もなく戦闘が終わる。
亜種と彼岸花達だけが残った山頂で、岩融や骨喰は刀を構えた。
検非違使が居なくなった今、次は自分達の番だと思っての行動だ。
だが、亜種は動かない。
彼岸花達に背を向けたまま、身動き一つ取ろうとはしなかった。
もしや死んでいるのか?と彼岸花が確認しようとしたとき、懐からお守りが落ちてしまう。
「あ………」
彼岸花は、亜種を刺激しないようにそれを直ぐ様拾い上げた。だが、顔をあげたとき亜種と眼があってドキリとする。
まずい、攻撃されるか?
身構えてみるが、反応がない。
亜種は、彼岸花の手を見ていた。じっと、逸らすこともせずに。
彼岸花は、そんな亜種から眼を離せなかった。
亜種が、口を小さく動かす。
『主』
「…………………………えっ?」
彼岸花は思わず聞き返した。
何故か、脳内に小さく聞こえたその声が響く。
声、が。
亜種が翼を大きく動かした。
臨戦体勢に移る刀剣達の中で、彼岸花だけが一人立ち尽くしている。
刀を抜くことも、膝をつくことも出来ない彼岸花はもしかしての、可能性に気がついてしまった。
手の中のお守りを握る。
亜種は、彼岸花の予想通りにそのまま居なくなってしまった。
呆然とする刀剣達。
彼岸花は、吐き気すらするような目眩の中で、奴が落とした赤い羽根を見ていた。
亜種が居なくなると、通信機は問題なく通じた。
髭切が報告をしている横で、彼岸花は冷や汗を流す。
気持ちとしては、四枚の羽を持つ化け物を見た様な気分だ。つまり、最初とほぼ変わらない。
だが、悪寒はその時以上だった。
生理的な寒気がする。
「………」
手の中のお守りを見た。
もし、彼岸花の考えが正しいのなら………もう、叶わない願いが出来てしまった。
(いいや。まだだ。まだ………)