第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
自身の腕をつかむ少女の顔を見た。
その上で、平野がこちらを覗いている。
繋いだ手から、血が流れて顔に滴ってくる。
前田は、自らの目に入った血に思わず目を閉じた。
血が流れていく感触がする。今の自分は、さながら血の涙を流しているように見えることだろう。
瞑った先の暗闇に、折れた兄弟達が見える気がした。
辛い、と小さく呟いてみれば少女と繋いでいる手が震えた。
いっそ、自分もここで折れてしまえばいいんじゃないか。
(あぁ、だめだ………)
でも、兄弟は二人も折れて石切丸も、岩融もいなくなってしまった。
戻ったところで、こんな自分に帰る場所などないんじゃないか。
考え出すと、悪い考えばかりが浮かんでくる。
「…………!」
繋がれた手が強くなる。
ハッとして目を開ければ、世界は先程よりもずっと眩しく見えた。
「大丈夫、絶対に助けるから」
前田の心情などお構い無しに少女は笑った。
「前田!すぐに助けます!!だから、一緒に………一緒に帰りましょう!!」
平野だって、この汚い胸の内を知らない。
(…………でも)
「し、にたくない」
そう思わせてくれるから、敵わない。
「………………はいっ!絶対に、帰りましょう!!」
少女の手にすがるように両手を重ねた。
彼岸花は一つ息を吸って前田を引き上げようとする。
背後では今も変わらず戦闘が繰り広げられているのだろう。見えないが。
その時、再び聞き覚えのある羽音が耳に入った。
「えっ?」
呆然と呟く。
羽音は、下から聞こえてきた。
彼岸花が瞬きする事も忘れて、身構えていると、崖の下から奴が飛んでくるのが見えた。
グッと、前田を引き上げる。
そして間一髪彼を抱き締めた所で、そいつは登場する。
場の空気が止まり、誰もがその化け物を見た。
「ま、さか。何で………」
絶望。奴をまた相手にすると思うだけで、血の気が引いていく。
強かった、んだよな。と、思い出して彼岸花は脇の刀を取ろうとした。
亜種が羽ばたく。 ....
奴は、彼岸花の隣を抜けるとそのまま背後まで迫っていた検非違使を蹴り飛ばした。……………まるで、彼岸花を守るように。
「は………?」
振り返ると、亜種は検非違使を爪で引き裂いている。
光景だけを見れば、壮絶なものなのに、そんなことすら気にはならなくて。彼岸花は、今の出来事に頭を支配された。