
第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい

岩融の怒りには、きっと身内に対する遠慮の無さもあったのだろう。また、身内を思う気持ちも。岩融が石切丸と同じ人に作られたことは、石切丸から聞いている。
身内を失う痛みは時に、自身の体を切られるよりも痛いのだと。
ならば、前田や平野もまた、さぞ痛かったのだと思う。
戦場では、一瞬で優劣が変わる。彼岸花と岩融が崖から落とされたように、時にはどうしたって駄目な時もあるのだ。
岩融もそれを理解はしているのだろう。だから、彼はそれ以上を言わない。
少し時間が流れて、ようやく落ち着いた岩融は二人を見る。
「……………お前たちの主はどうした。連絡はしたのだろう」
岩融が聞くと、二人の顔に影がさした。
「まさか、撤退させてもらえぬのか?」
岩融が声を低くして問うと、二人はすぐさまそれを否定した。
「違います!主君は、優しい方です!ただ…………連絡が、出来ないんです。」
「何処かで通信機を壊してしまって………」
平野が通信機を取り出すと、彼岸花はそれに顔を近づけて見た。
「………これ、壊れてるの?」
そうは見えないけどな、と続ければ平野も頷いた。
「僕も壊れているようには見えません。けれど、事実連絡が出来ないので………」
「うーん………もしかしたら、あの亜種のせいかもね。」
「………というのは?」
彼岸花は目を閉じて考える。
「実は、私達の通信機も壊れているんだよ。だけど、改めて考えるとおかしいなぁって。何がおかしいのかは細かすぎるから流石に説明できないけど、一つ言えるのは二つの通信機が同時に壊れるなんておかしいよね。」
違和感は感じていた。そう、あの時髭切が通信機を壊したと言ったときから。
「恐らく、奴は通信機を一時的に使えなくするような悪いものを流してるんだと思う。」
「えっ。じゃあ………」
「通信機は壊れてないと思うよ。もっと奴から離れた場所で使ってみればいい。」
彼岸花は提案する。正直、確信のある考えではないが、どのみちもう既に戦える状態ではない彼等をこの辺に留まらせる意味もないだろう。危険なだけだ。
「そう、ですね。ならば、もっと離れたところで使ってみます。………あの、お二人は?」
「俺の考えは決まっておる。だが………小娘、お前はどうする?」
岩融の問いに、彼岸花は言い切れぬデジャブを感じながら答えた。
「決まってますよ……………」
