
第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい

「二人で出陣させられたのか?」
岩融が早くも怒りを露にするが、彼岸花がそれを否定する。
「二人ではないと思うよ。少なくとも、貴方は居たんだ。岩融さん」
彼岸花が岩融の名を出すと、短刀二人の顔が目に見えて曇った。
その様子を横目で見ながら、彼岸花の中で一つの仮説が確かなものになる。
「それで、話を聞く限りで察すると………君達の本丸にいた岩融さんは、君達を守るために側を離れた、そんなところかな?」
彼岸花が問いかければ、平野は微動だににせず、前田が頷いた。
「ふむ………事情を聞いてもいいか。もしや、力になれる事があるやも知れぬ」
岩融の言葉に、二人は一度顔を見合わせた。
だが、決意までに掛かる時間は短かった。
此方を見た二人の目には、まだ諦めきれない意思が見えた。
「お話しします。ここまで来た僕らの全てを」
立派な刀だ。本当に、強い。
彼岸花と岩融は二人の話に耳を傾けた。
二人の居た本丸も、同じく亜種の退治に乗り出していたらしい。
前日には宴も開催されて、皆気合いは十分であった。
隊の編成は早く動ける方が何かと対処も出来るであろうと、短刀四人、大太刀一人、そして薙刀が一人という組み合わせであった。
だが、亜種と交戦しはじめて数時間。亜種が再生能力を持っていることを知り、気後れから徐々に押され始める。
そしてその後、短刀乱藤四郎と、厚藤四郎が折れる。もう駄目だと判断した隊長である石切丸が最後に奴の気を引き、前田、平野、岩融が森へと引く。
けれど、石切丸を倒したやつはしつこく前田達を追って森の上空まで来た。
せめて通信機を使える開けた場所まで出れれば、帰ることも可能なのに。そう考えた前田達に、岩融が囮になると申し出た………そして、逃げた二人は現在に至る、ということらしい。
聞けば聞くほど酷い話だ。
(でも、そうか。奴が最初森の上を飛んでいたのは前田くん達を追いかけてたんだ)
彼岸花が納得したのと同時に、岩融がもたれ掛かっていた大木を殴る。
「うおう。どうなさった、岩融さん」
「腹が立つ。」
「………気持ちはわからなくもないけど、何に対して」
「石切丸だ!」
「え、石切丸さんに、ですか?」
前田が岩融に尋ねる。
「何故、奴はもっと早くに撤退をいわなんだ!そうすれば、短刀が折れることもなく、奴も生き残れたかもしれぬのに………!」
