第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
彼岸花が動いたその時、まるで世界が一瞬、止まったかのようであった。
髭切に呑まれていた空気が我を思い出して、同時に彼岸花の存在に気付く。
誰もが呆気に取られて、目の前の出来事に気付いた時には、もう終わっていた。
彼岸花が刀を抜いた瞬間、亜種の目から血が吹き出した。
その感触に彼岸花は、二度とこんなことはしないと生理的な嫌悪感に誓った。
亜種から一歩距離をとって、刀についた血を振り払う。
「おぉ、やるね」
「どうも。まぁ、不意打ちなんですけど」
「でも、いいタイミングだったよ。」
「………ありがとうございます」
軽く礼を述べて、彼岸花は亜種の動きを見る。
亜種は現在、怒り狂っていた。
全身で叫んで、奴は痛みを誤魔化す術を探しているようであった。
彼岸花が再び刀を構えた時、突如背後から声がかけられる。
「避けろっ!!」
彼岸花が振り返った先で、骨喰は上を見ていた。
彼岸花が何だろう、と呑気に上を見るとそれは真っ直ぐ此方に落ちてきていた。
「うわあああぁぁぁぁ!!??」
叫びながら、横にとぶ。
………落ちてきた"岩融"は、地面に深々と刺さっていて彼岸花は肝が冷えるどころじゃない恐怖を味わう羽目になった。
「あ、あ、あ、あっぶねぇ!!」
何を考えるのも忘れて叫ぶ。
(そうだよなぁ!思えばあいつ岩融くわえてないやんけ!)
言語が崩れさる程のドッキリ体験であった。
岩融が歩み寄ってきて自身を引き抜く。
「すまなんだな。驚いたであろう」
「笑いながら言われても、謝られてる気がしないんですけど」
彼岸花が怒った顔で言えば、それがさらに可笑しかったらしく岩融が肩を震わせる。
(な、何で私にはこういったことしか起こらないんや………)
自分の強運さが恐い彼岸花であった。
仕切り直し。
彼岸花はため息をつきながら、立ち上がる。
亜種に向き合うと、奴も彼岸花を見ていた。
先程までは全く見向きもされなかったのでこれはこれでいい気分である。
彼岸花は次の手を考えた。
奴を殺すのに効果的なのは………
「ん?」
彼岸花が真面目に考えていると、亜種が無くなった前足を持ち上げた。
誰もが警戒して奴を見ているなかで、奴の前足の断面が急に血を流すのをやめた。