第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
岩融が自身を振るう。
横に一閃されたその攻撃は、翼を動かしたくらいではどうにもならない。
それを亜種も理解していたのか、大きく口を開けて………吠えるのかと思っていたが奴は予想外の行動に出た。
顔をわざわざ下げて岩融の刃の前まで持ってきた奴は、口を大きく開けて岩融の刃を………噛んだ。
「えっ!」
「…………!」
思わず叫んだ彼岸花。岩融も流石に目を丸くしている。
亜種はそのまま首を持ち上げて、数コンマ程の間、引っ張りあうような形になった。
だが、体格が違いすぎるのもまた、事実。
岩融は確かに規格外の大きさではあるが、それでも所詮は人のなりの範疇だ。完全な化け物とやるには分が悪い。
岩融の体が持ち上げられる。すぐさま岩融は本体から手を離したが、それこそ自殺行為。
本体に奴の牙が食い込んでいく。
「岩融ぃ!!」
今剣が叫んで岩融に駆け寄る。
だが、岩融は歯を食いしばって何も言わずに自身を見ていた。
諦めているのではない。それは、彼の闘志に溢れた目を見れば解った。
彼岸花は刀を構える。
(どうする!?どこを狙う………!)
急げ。考えろ。
彼岸花は頭を回した。
だが、彼岸花が動くより先に駆け出す者がいた。
隊長である髭切だ。
髭切は刀を振るって亜種の前足を斬った。
一瞬、何も斬れていないじゃないかなんて思った彼岸花だが、直後亜種の体が傾いたのを見てハッとする。
血が、遅れて吹き出した。
亜種の前足を見ると、見事に分裂されている。
「ーーーーーーー!!!!」
痛みを訴えるかのように叫ぶ亜種。
奴は、斬れた足の断面で必死に体を支えていた。
「ーーー次は、右の前足を貰うよ」
トーンの変わらない髭切の声が、逆に恐ろしく聞こえた。
(骨すらも斬るか)
凄い。侍の技だ。
彼岸花達は刀なのでその評価があっているのかどうかは解らないが、そう思った。
そして、彼岸花はその時、一瞬の隙を見つける。
誰もが髭切の空気に飲まれたこの瞬間。今を逃して何も出来やしない。
彼岸花は刀を真っ直ぐに構える。例のフェンシングスタイルだ。
(狙うは………一点)
彼岸花の体がグッと踏み込まれた。
そしてそのまま刀が、亜種の目に突き刺さったのであった。