第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
「わるいのは、うらぎったのは、あるじさまのほうなのに。どうしてぼくらが、こんなにがんばってるじゃないですか。………………………………これいじょう、どうしろっていうんです。めをそらしてる、なんてそれじゃあなにをみればいいんですか!!!」
今剣が叫んだ。
この本丸に最も長くいた、その大きな瞳が揺れる。
「……………………っ!!加州!!ここにいるんでしょう!?なら、へんじをしてください!ぼくらは、ずっとまってるんですよ!!!どうして、どうしてかえってきてくれないんですか!!」
ただただ叫ぶ今剣の両目から、涙がボロボロと落ちていく。
辺りをぐるりと見て、ないていた彼は、やがて膝をつくとその場で泣き出した。
(……………恐いんだ)
何が?そんなこと聞くな。
彼の、心の奥の孤独。
彼岸花は今剣に近づこうとして、横から伸びてきた手にとめられた。
「……………」
無言で止めた石切丸を見る。
彼は、そっと首を振ると自ら今剣に歩みよって泣いている彼を抱き上げた。
(石切丸なら仲もよいみたいだし、大丈夫か………)
そう、彼岸花が思った瞬間。
「っ………!」
今剣の小さな拳が石切丸の頬を撃った。
「え…………」
彼岸花は目を丸くするが、それで今剣に変化が起こるわけでもない。
今剣は、狂ったように泣きながら暴れ続けた。
そこでようやく、彼岸花も今剣の異変に気付いたのである。
「い、今剣君はどうしたの?」
隣にいた青江に話しかける。青江は目を少しだけ細目ながら答えてくれた。
「感情が昂ってあてられたんだろうね。」
(あてられた…………)
「!?………取りつかれたの?」
さらっと言われたがとんでもない事である。
「取りつかれてはいないよ。………まだね」
「まだ!?いやいやいや、冷静だな!」
「心配ないよ。石切丸が直ぐになんとかするさ」
「え、えぇ………」
断言した青江の口調は信頼に満ちており、仲が良いのは結構であるが、聞いているこちらとしては心配しかない。
石切丸に視線を戻す。
今剣は、石切丸の腕の中でまだ暴れていた。その表情は髪に隠れて見えないが、涙だけがずっと頬を伝っている。
………………………………その涙が、悲しい。
やがて、今剣は暴れることを止めた。