第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
「神だって人だって、自分を真っ直ぐ思う相手に嫌悪なんかしないさ」
石切丸が言った。彼岸花は目を丸くする。
(真っ直ぐ思う………)
思えているのだろうか。
「まぁ、彼等は君のことを恐がってもいるようだけどね」
青江がそう付け足した。
その発言には彼岸花もカチンときて、突っかかる。
「恐いって、どういう意味ですか」
そう言えば、前にもそんなことを言われた気がする。どうしてこんな自分が恐いのか。
(か弱いもんじゃないか)
獅子王達が聞いたならその場でひそひそ話が始まりそうな事を彼岸花は脳内で主張する。
「そのままの意味だよ。君は、あまりにも見えすぎてる。良いものも、悪いものも」
「なんか、よくある漫画の台詞そのものでビックリ。………私に見えるってことは、見ようと思えば誰にでも見えるものって事ですよ」
「そうだね。でも、そこから目を逸らしてしまうのが人だ。」
「……………人、ねぇ。」
彼岸花は若干含みを持たせた声で言った。
青江と石切丸と今剣。三人の視線が無表情の彼岸花に向けられる。
「私達と人、何が違うのかな。」
「………………………………………え?」
聞き返したのは今剣。
きょとんとした様子の彼は、ただ彼岸花を見ている。
「私は、思うんだ。人も私達も生きていく上で大切なものは何一つ変わりやしないって。神様だから理を曲げてもいいわけじゃないし、人だからって不幸を愛するのもいけない。心にひとつ決める大切なものは皆一緒で、だから私もそうありたいと思って行動してるよ。」
彼岸花は三人の顔を見ることはなく、夜空を仰いだ。
「話を戻すと……………目を逸らしているのは人だけですか?って事が言いたい」
「……………………………………………つまり、僕らも目を逸らしていると?」
僅かな沈黙を持ってから、青江が聞き返してくる。
彼岸花は肩をすくめてみせた。
「さぁ。それは、貴方が一番よく知ってることじゃないかな。」
「………………狡いよねぇ、そこでそう返すのかい。僕は………」
青江が何かを言いかけたその時、ガシャンッ、と大きな音がその場に響いた。
反射的に音の方へ顔を向けると、そこには今剣。
彼が刀を落とした音であった。
「……………………………なんで、どうして僕らが怒られないといけないんですか。」
今剣が呟いた。