第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
「きましたね。なら、さっそくいきましょう」
今剣が彼岸花の姿を確認して踵を返す。
「待った」
それを止めたのは彼岸花。
「………なんですか、これからってときに」
「昼間の話によるとこの先ってご神刀でも厳しい所なんでしょ。君は、ご神刀じゃないみたいだけど、どうするの?」
「それならだいじょうぶです。石切丸がまもってくれますから」
「え、そうなんだ」
彼岸花は石切丸を横目で見た。成る程、それなら安心か。
(まぁ、ド素人の私が守よりいいか)
一先ず安心した矢先、今剣が不満そうな顔をする。
「もういいですか」
「うん。引き止めてごめんね」
「………ほんとうです。せっかくのときに」
「あははっ。悪かったよ」
笑う彼岸花を見ることもなく、今剣は歩き出す。
「すまないね。今剣が」
例の場所へと向かう途中。石切丸がそう話しかけてきた。
「いいえ。気にしてませんよ」
「そうかい?それなら、いいのだけど。彼も何時になく焦っているみたいでね」
「……………それって、やっぱり仲がいいからってのもあるんですか?」
「あるだろう。ただ、だからといって今の加州と仲が悪いわけでは無いんだけどね」
「今の加州は、前の加州の事を知っているんですか?」
「どうかな。少なくとも、僕らは言っていないよ」
その僕らが何処まで含んでいるのかを彼岸花は今一つ解らなかったが、取り敢えず石切丸は言うつもりが無いということは解った。
「なにこそこそはなしてるんですか。つきましたよ」
今剣が丁度振り返る。
少し開けた木々の間にあるのは、確かに昨夜の部屋だ。改めて覗き込むと中々に気味が悪い。変な声も聞こえるし。
金網には、彼岸花が切ったあとが残っていた。
「それじゃあ、おりてみましょう」
今剣が言い終えると同時に、身を乗り出す。
彼岸花はそれを止めようとして、先に石切丸が今剣の首根っこをつかんだ。
「おっと。待ちなさい、僕と青江が先に行く」
「危ないからね、君達は後から来た方がいいよ。出来たら僕らが事を済ませるまで待ってから来てくれるといいな」
真面目なのかふざけているのか判別できない言葉を残して、二人は刀を抜いて降りる。
暫くして覗き込むと、何やら空間を切っている二人が見えた。
「あぁ、もう!もどかしいったらありゃしないです。」
今剣の文句が妙に年相応であった。