第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
「大切な事を思い出させてくれて、そして教えてくれて、ありがとうございました」
一期か頭を下げる。
彼岸花は驚いて固まってしまう。
「私は、あのままでは弟達をどうしようもない不幸に引きずり込むところでした」
「………不幸になる、ってことは解ってくれたんだね」
彼岸花は笑うことも泣くこともなく、そう言った。
「……………はい。あれから短い間ですが考えて、冷静になるとそう気づきました。」
(それは、つまり………)
闇落ちから完全に抜け出したということだろうか。思えば、禍々しい感じも抜けきっている。
「そっか。今だから言うけど、一期さんは闇落ちしかけてたんだよ」
「……………やはり、そうですか。」
「やはり?何か心当たりでもあるの?」
「…………実は数日前、少し怪しいととある方に言われまして」
「…………………………………………………それ、誰?」
「え、鶴丸殿という方です」
「そっか。成る程…………………」
(鶴丸殿、ね。)
彼岸花はその名前を記憶に刻んだ。……………………万が一の可能性にかけて。
「どうかなさったのですか?」
突然顔色を変えた彼岸花に一期が尋ねてくる。
「いや、何でもない……………訳じゃないけど、気にしないで。変なことじゃないから」
「………解りました。詳しくは追求しません。とにかく、私が感謝している事だけ、知っておいてください」
「………………ありがとう。」
彼岸花は複雑な思いはあるものの、頷いた。
一期が礼を言ったからといって、彼岸花のやるべきことは変わらないし、やったことも変わらない。
間違っていると伝えはしたが、この本丸を変える日まで彼岸花は彼等を救ったことにはならない。
ありがとう、の言葉は嬉しいがそれに甘えるようじゃいけない。
「必ず、この本丸を変えるから。だから、待ってて」
「必ず、この本丸を変えるから。だから、待ってて」
穏やかな声でそう言った少女の顔は、何とも言い難い位に………綺麗だ。
(……………………………………え)
脳内で間抜けな自分の声が聞こえる。
カッと頬に熱が集まる感覚に、思わずぎょっとするが変に動くわけにもいかず唾を飲む。
「私ね、貴方を否定してばかりだけど、一応救いたいと思ってるんだ。」
彼岸花が続けた言葉。
一期はそれを黙って聞いている。