第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
一期一振に出会った。
彼は確かに前より酷い霊力だが、体に異変はあらわれていない。
(取り敢えず、間に合ったか)
足元の黒い影のおかげで、随分と消耗してしまったが、まだいける。
何よりも、命を懸けた一騎討ちだ。負けられるか。
「………貴方は、どうしてここに?」
一期が警戒しつつも、比較的穏やかな声で聞いてくる。彼岸花は答えた。
「連れ戻しに来たよ。貴方と、貴方の弟達を」
「…………………何?」
「連れ戻しに来た。一緒に、本丸に戻ろう」
「断る。私も弟達も、この場所から出るつもりはない。」
「それは、なぜ?」
彼岸花は解らなくて訪ねたのではない。彼の、真意をその口から聞きたかった。
一期一振は彼岸花を覚えていない。昨夜、前田とあったこともこの様子だと覚えていないのだろう。
全く、忘れることだけは器用なもんだ。
「………私は、今度こそ弟達を守る。その為にはここに居ることが何よりも、良いことなんだ。」
俯いて、一期は言う。
「ここに幸福は無いよ。」
彼岸花は残酷にも言った。
一期が顔をあげる。ハッとしたような顔に、彼岸花は首を振った。
「幸福っていうのは、流れる時間の中にだけ有るものだ。貴方は、今、幸福?私には、そうは見えない。」
「………少なくとも、不幸ではない」
「そんなこと聞いてない。幸福ですか?って、聞いてるの」
目を少し細めて、彼岸花は強く問う。
今の一期は、酷く臆病だった。前の時のような攻撃性は僅かにも見られない。
きっと彼は、もう何度も考えてきたのだろう。彼岸花に尋ねられなくとも、おかしいと何処かで感じていた。
(ここには、なんの不幸もない。けれど………)
一期は考える。ここに、幸福はある?
「……………解りません。もう、何度も考えていたのに」
一期は俯いて、涙を流す。
その涙が、地面に咲く花に落ちて、彼は膝をつく。
「お願いだから、放っておいてはくれませんか。私は、もう、考えたくない。解らないんです、何もかも。だけど、彼処には戻りたくない。辛くて、苦しくて、弟達に手が届かなくて。私は、汚れていくばかりだ」
子供が泣くように、一期は心の内をボロポロと落としていく。
ただただ、辛いと、彼は泣いている。
その臆病は、他の誰でもない。彼の、主が作った傷だ。
彼岸花は、それを聞いて尚も、否定を口にする。