第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
「貴方は、間違ってるよ」
彼岸花は言った。一期の肩が跳ねる。
「………結局、貴方は私を否定するだけなのですね。」
一期は冷めたように言った。
彼岸花は冷める一期に言った。
「諦めるなよ。最後まで聞いてから考えて。………貴方が辛かった事、私は、今知った。………誰にも、言えなかったんだね。辛いこと、苦しいこと、泣きたいこと。でもね、辛くても逃げてはいけないんだよ。」
彼岸花は諭すように言った。
彼の苦しみ全てを、彼岸花は知らないから、解ってあげたいと、思うから。
軽々しく、そしてそっと、彼岸花は一期の前に屈んでその頭に触れた。
「!!」
逃げようとする一期の肩を掴んで、頭を撫でる。
「!!」
彼岸花は話した。
「大事なものがある人は逃げちゃいけない。何故なら、逃げたらその守ろうとした心すらも失ってしまうから。人には心がある。貴方にも、心がある。心あるものはさ、辛くたって逃げちゃダメなんだよ」
彼岸花が話すと、一期は更に涙を落とした。
臆病な彼は言う。
「それなら何故、心なんてあるんですか………」
理不尽だと、彼は言う。
誰しもが優しい心を持っている訳じゃない。幾ら此方が尽くしたとて、相手は奪うだけだ。優しいものが損をするような世界で、大事なものが奪われるだけなら、何故心なんてあるのか。彼は泣いてそう、言った。
「決まってんだろ。愛するためだよ」
彼岸花はさらりと言う。
「確かに、理不尽な事に心は弱いよ。だけど、そんな理不尽すらも覆すような幸福が、世界には確かにある。君が、弟を守ろうとした心は間違ってないよ。だから、そんな心をどうか否定しないで」
「辛いのなら、幾らでも私が聞いてあげる。苦しいのなら、一緒に苦しもう。そして、そこを抜け出そう。私はまだ、諦めてない。」
この本丸を変えるんだ。
「私の誇りは、誰かを思うこの心だよ。貴方もまた、一緒にここに居る。だから、貴方もまた、私には大切な人なんだよ」
貴方は迷惑かもしれないけど。少し意地悪にそう付け足して、彼岸花は照れくさいと笑う。
誰かに笑って話せるくらいの誇りを、一応は持てていることに彼岸花はホッとした。
一期の顔を見る。
涙で濡れたその瞳と、視線が交差した。
「よく、頑張ったね」
ポン、と頭を叩いて彼岸花は微笑んだ。