第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
「ーーーーーったぁ!!」
背中を強く叩いた痛みに、彼岸花はのたうち回る。
時空の歪みへと身を投げた彼岸花は、あの後、長い長い落下の時間を味わった。
暫く地面と離れていたせいで何だか水平感覚がおかしくなった気がするが、取り敢えず生きている。凄く素晴らしい朗報だ。
地面とじゃれあっていると、不意に感じたのは花の香り。
顔をあげると、目の前に花が咲いていた。
………否、目の前だけじゃない。彼岸花が寝そべっているこの場所そのものが花畑の一部だ。
凛として咲き誇る花の美しさは言葉にも絵にも出来ないものだ。
辺り一面から漂う霊力に、彼岸花は目を閉じる。
(これが、一期一振の世界………)
思わず内心呟いた。
ここは一期一振が造り出した世界。それは、つまり、彼の心の全てがこの世界ということだ。
(本当は、こんな風に生きたかったんだろうな………)
こんな風に咲き誇って、弟達と生きて。
それが、彼にとっての幸福。
神隠しを成功させられたと言うことは、一期一振は既に闇落ちしてしまっているのだろうか。
最悪の考えが頭を過る。残念ながら、無いとは言いきれない。元々、一期一振は不安定だった。それが、何らかの刺激で闇落ちまでしてしまった………。
(もしかしたら、太郎太刀が言っていたのは一期一振の事だったのかも。)
前に殺されかけた時、一期の放つ気は大分おかしかった。それを、太郎太刀が感じ取っていたとしても何らおかしくはない。
彼岸花は複雑な思いで空を見る。
逃げることを選んだ一期一振。
「なら、それを連れ戻しにいく私は、疫病神か」
彼岸花が言い終えると同時に、この景色には似つかわしくない黒い影が地面から這い出てきた。
「黙って行かせてくれるつもりもないと。」
敵に容赦しないその姿勢は天晴れだが、どちらが正義かは明白だろう。
「一期一振、貴方は今の自分を誇れますか?」
ここにはいない一期に、彼岸花は問いかけた。
そして、刀を抜く。