第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
「や、薬研兄さん!」
「五虎退………どうした?今、大事な話の途中なんだけどな」
「解っています。あの、僕も………いいえ、僕は、生きたいです。皆と一緒に」
五虎退の言葉に、前田も薬研も目を丸くする。
まさか、五虎退がそんなことを言うとは思わなかった。
「五虎退………そう、思ってくれていたんですね」
前田が思わず呟くと、振り返った五虎退が強く微笑んだ。
その顔に、臆病な弟の面影なんてない。なんと、頼もしい顔だろうか。
「はいっ。僕も皆と………一緒に居たいです。ここにいる、皆と」
「五虎退、前田………!僕だってそう思ってるよ!!」
次に叫んで、二人に抱きついてきたのは乱。彼も涙を流している。
「俺も、兄弟達と一緒に居てぇよ。」
兄弟の中では上の部類に入る後藤が呟いた事で、次々と短刀達から声が上がる。
「僕、もっと皆でお話ししたいです。」
「俺だって、同じ気持ちたい」
「………俺も、そうだよ」
秋田、博多、厚と続いて、最後に平野が前に出た。
「僕も、兄弟と一緒に居たいです。明日もまた、一緒に居られたら、それ以上なんて………」
呟いて、平野が見上げるのは一期一振。
一期は、弟達を見回した。
「一兄、俺、俺も駄目だと思うけど………折れて、またやり直しなんて嫌です」
鯰尾が拳を作って兄の顔を見る。
付喪神に死なんてものはない。仮に今、この体が朽ちたとしても、分霊である自分達はまた何処かで具現化されて、最初からになる。
そんなの、嫌だ。終わらないけれど、最初からになるそれは終わりと何が違うのか。
「俺も、一緒だ。一兄」
骨喰が続ければ、一期も歯を食いしばった。
弟達は、もう結論を出した。
死にたくない、一緒に居たいとそう言ってくれた彼等に、自分はなんと返せば正解なのか。
(……………あぁ、いや。正解を探していてはダメなのか)
自分がどうしたいのか。
弟達を守らないと。
ーーー私には、引けない誇りがある。
声が聞こえた。女の声が。
その声は、一期の知らない声であるはずなのに、酷く心をざわめかせる。
(引けない、誇り)
弟が誇りなのか、弟を守ることが誇りなのか。
大切なものを守るにはどうすればいい?逃げてしまえばいいのか。
「……………………………………そうだね。」
「ならば、この兄と一緒に逃げようか」
誰の手も届かない場所へ。
一期は、微笑んだ。