第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
ーーー「いいよ。」
呟いた声は聞こえているだろうか。
刀に戻った彼岸花を、前田が抱える。
「さっさと行けよ」
背後からかけられる声に、泣きながら彼は座敷を出た。
何も変わりやしないのだと。また、同じことを繰り返すだけなのだと、実感してしまった。
自分は、傷つけてしまった。
(一兄………)
助けて、ともう言えない。彼は、きっともう、元には戻らないから。
解っていたのに。失ってしまったものが多すぎて、どんな顔をして帰ればいいのかが解らない。
屋敷を出て、山道を一人くだる。
しばらく歩けば、道の脇に金網が見えた。
その金網の隙間から、下を覗きこむ。
抱えた刀を見る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……………」
呟きながら、唱えながら、前田は刀を手放した。
刀が、金網の隙間を抜けて下へと落ちていく。しばらくして、それが何か固いものにぶつかるのを聞いて、前田は泣いた。
下に居るのは自分達。
捨てられた、刀達。彼等は、みんな、具現化する事も出来ないまま、地下で闇に浸り続ける。
主は、刀解をしない。
二振り以降は皆、具現化されることもなく、地下に落とされる。
地下には刀が溢れて、もう後戻りは出来ない。
この地下は、前の審神者が、使っていた物らしい。何の目的で作られたのかは知らないが、主はここをゴミ箱として利用した。
沢山の刀達。
見捨てた自分達も、捨てた主も、皆最低だ。
解っていたのに。狂っていると知っていたのに。
(一兄…………皆………)
ごめんなさい。
謝って、謝って、また、自分は、この場から背を向ける。
下で、彼等は自分を見上げているのだろうか。
恨みの積もった目で、憎しみの燃える目で。
前田は泣いた。卑怯者だと、自分でも思いながら。
暗い。暗い。光のない世界。
そこは、暑くも寒くもない。ただの、無。
彼岸花は、目を開けた。
見える先は暗闇。
「……………………………………………ん?」
違和感を感じる。
闇の中から視線を感じるのだ。
「……………………誰?」
尋ねても答えはない。
ただ、闇がざわめく。誰かが話す声がする。
「ーーーーーーー」
「ーーーーーーー」
「ーーーーーーー」
異国の言葉のように、何を言っているのかが解らない。
彼岸花は起き上がろうとして、地面に手をついて気付いた。
自分が手をついたものが、何であるかに。