第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
終わらせる?もう沢山?何を?何が?どうして?何で、お前が、そんなことを言う?
「………………………………何で、貴女がそんなことを決めるの」
自分でも驚くほど冷静な声で、彼岸花は尋ねる。
少女が顔をあげた。見えた瞳は、ドロリと黒く、彼女の中の絶望の大きさが窺えた。
「何で?私が主なのよ。持ち主くらいには従いなさいよ」
「持ち主?ふざけないで。貴女が好きにしていい命なんて、何処にも無い。今の貴女は主なんて大層なものじゃない。ただの愚か者だよ。」
「あんたの言葉に何の価値があるって言うの。ゴミ」
「貴女こそ。ずっと、価値のないものに捕らわれ続けてるんだね。そんなに、恐い?愛することが。愛して、それが伝わらないことが」
彼岸花は聞く。
どうしようもない、言葉の羅列。それが真実でも、そうでなくとも、伝わってくれ。
「恐い?恐いなんて、違う。うぜーんだよ、お前も他の奴等も。終わればいいだろ、全部まとめて。煩いからもう、喋るな」
「拒絶したって、どうしようもないんだ。そんなこと、知らないなんて言わせない。貴女は、恐いんだ。ずっと、臆病なまま。そんなの、間違ってる。誰かを傷付けることも、誰かを苦しめることも、意味なんてないんだよ。それで、満たされるものなんて何一つない」
「だから?だからなに?ねえ、その言葉に何の意味があるの。煩いっていってんだろ!!欲しくもないんだよ!!!お前からのものなんて!!!!!」
激昂。少女が叫ぶ。叫んで、彼岸花を睨んだ。
「正義も、生き甲斐も、希望も、要らないんだよ。解るか?お前だっていらない。私は、欲しくない。」
彼岸花は口を開く。まだ、間に合うとすがる思いで。
だが、それは間に合わなかった。
少女が兄に抱きついて泣く短刀を見る。
「前田。」
名を呼べば、前田の嗚咽が聞こえた。心の奥まで染み付いた声に、しかし振り返らない訳にはいかない。
「………こいつを、部屋まで持っていけ。そしたら、今日は勘弁してやる」
少女の言葉に、前田が目に恐怖をたたえて彼岸花を見る。
部屋?彼岸花は不穏な言葉に、少女を見る。
「……………………………」
前田が彼岸花を見ている。彼岸花も、彼の目を見た。
それで、悟ってしまう。
具現化が解かれていく体。
消える前に、彼岸花は微笑んだ。
彼が兄にそうしたように。