第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
ーーー目の前の光景に、背筋が凍る。
自身の本体を振り上げる短刀、その刃先が向けられているのは、彼の兄。
琥珀色の兄の瞳が見開かれている。
弟が声にならない声で言った。
『一兄、殺してください』
殺してくれと、頼む彼の顔は幼い顔立ちには似合わない寂しい笑顔があった。
屋敷に戻った彼岸花は、何か悪寒を感じた。
「何やら静かですね」
こんのすけが呟く。彼岸花は、辺りを見回した。
もちろん誰もいないのだが、何だろう。この、落ち着かない気持ちは。
彼岸花は、屋敷の中を走り出す。
道場の前まできて、躊躇わずに中を覗く。誰もいない。
「……………………座敷か!!」
道場の扉を乱暴に閉めて、廊下を走る。
座敷の襖が僅かに開いたまま放置されている。隙間から漏れる光に、彼岸花は襖を開け放った。
「…………………………………え」
開けて、先ず見えたのは朱色。
自身の本体から血を滴らせる短刀は、血が流れる腕を押さえる兄に、微笑んでいた。
彼岸花は、目を丸くして彼の言葉を聞く。
「一兄、僕を、殺してください。」
その表情の意味を、彼岸花は理解していた。
兄を守る弟たち。それが真相だから、彼はまた、譲って失うのだろう。
一期一振その瞳から涙を溢す。
彼岸花は、その一瞬に飛び込んだ。
舞い上がる血飛沫。解っている。それは、彼岸花の血だ。
振り下ろされた短刀を右手で受け止め、刃の部分を掴んで彼の手から取り上げた。
よろけて倒れ込むその小さな体を受け止めて、彼の兄に託す。
短刀は、取り敢えず背後に投げた。
「誰か受け止めろよっ!!」
叫んで、対峙するのはこの現状の元凶。
「小娘っ!!していい事と悪いことがあるだろうが!!弟に、何てことさせてるんだ!!」
彼岸花は叫ぶ。
腹部の傷が痛むし、切った掌もビリビリと痺れた。
でもその全てが、目の前のこいつのせいなのだから、今は仕方ないだろう。
「…………………………はぁ?何させてるって、見てわからない?」
小娘の開き直るような言葉に、カッと頭が熱くなった。
「どうしてこんなことをするのかって、聞いてんだよ!!!」
本丸全体に響くような彼岸花の声。
その声に、少女は一つの言葉をこぼした。
「終わらせようと思ったの。もう、沢山だから」
「………………………は?」