第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
ーーー屋敷、数分前。
歴史修正主義者が全滅した。
その事に、刀剣達は安堵する。
それもそうだろう。彼岸花が去ってから戦況は悪くなる一方で、ついには夜戦に向いていない太刀までもが歴史修正主義者と戦うことを余儀なくされていた。
主である娘が来ないことは最初から解っていた。でも、来ないことで更に嫌悪感が増したのも事実。
やっと終わった戦いは、彼等の心に重たい物を残したのであった。
「一期。大丈夫か?」
戦いが終わり、落ち着いてきた空気。
その中で、一期一振は満月を見ていた。
声をかけてきたのは鶴丸。一期は大丈夫だと答えた。
「そうか。やはり流石と言ったところか。息ひとつ上がっていないじゃないか」
「そうでしょうか。ですが、調子がいいのは事実ですな。何だか、妙に気分が良いのです」
「成る程な。………ところで、今日も主は来なかったな。こんな状況だと言うのに。」
「………えぇ。そうですね」
「主にとって俺達は、ただの捌け口なのだろうな。何が、とは言わないが」
「止めてくだされ。鶴丸殿。今日はもう、寝るのですから」
「あぁ。それもそうだな。……………そう言えば、一期。一つ、良いことを教えてやろうか」
「はい?」
首を傾げて鶴丸を見る。
鶴丸は、月を背に笑った。
「歴史修正主義者ってのはな、不浄の存在なんだ。」
「えぇ。知っておりますが」
「不浄の存在と長い間干渉した者は、闇に落ちやすくなる。………気を付けろよ。一期」
「……………私は、大丈夫ですよ。何せ、弟たちが居ますから」
「…………それもそうか。なら、安心だな」
結局何が言いたかったのか。鶴丸は、そう言うと手を振って屋敷に入っていってしまった。
相変わらずよく解らない人である。
(一期の目、赤くなってたな………)
一瞬、月の光で光った一期一振の眼。
その色は赤。
これが何を意味するか。鶴丸は、知っている。
(早めに対処しないとな)
手遅れになる前に。
「不浄の存在ね。…………今日の歴史修正主義者は普通とは違うんだぜ?一期よ」
次の幕開けまであとーーー