第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
誰もが迷い苦しみながら生きていく。
彼岸花はそれを、悪いことだとは思えない。
迷いも苦しみもない人なんて居やしないのだ。
迷いや苦しみの中にいるとき、誰もが自分を見て悲しくなることだろう。弱い自分を嘆くのか、醜い自分を殺したくなるのか、それとも知らぬ振りを通すのか。
他人は騙せても自分は騙せない。そして、自分の愛する人も。
家族、友人、仲間、恋人。大切な人が居ない心ほど、憐れなものなんてあるものか。
「誰よりもさ、自分に誇れるように生きたいじゃない。昨日の自分を振り返って、今日もまた、頑張ろうって思いたいよ。」
本当に、彼を殺すしか無かったのだろうか。道はそこにしかなかった?辛くて苦しんでいる誰かを、こうすることしか出来ないなんて。
満月から目を逸らして、もう、折れてしまった刀を見る。
鞘に収まった彼の傷は、もう直ることもない。
目を閉じて、手を合わせても、自分の心は晴れない。
だけど、それと向き合うことが認めることであるのならば。
「お休みなさい」
もう一度繰り返して、手を合わせる。
彼岸花の様子に、刀四人も手を合わせた。
自分に誇れるように。伝わればいい。この言葉が。
もしも、明日………自分を殺したいと思ってしまったら…
未来の自分を考えてほしい。昨日を思い出して努力する自分を。