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〈刀剣乱舞〉もしも、明日………

第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない


そして、彼が呼吸を止めるその瞬間まで、少女はそうしていた。
人に傷つけられ、涙を流す事も出来なかった魂に、せめてもの冥福を。
涙の跡ができた太郎太刀の頬を見る。最後の最後、彼は何を思って泣いていたのか。
きっと、彼の魂が直ぐに救われることは無いのだろう。けれど、何かが変わることを願って彼岸花は涙の跡を拭いはしなかった。
殺す事しか出来なかった自分を、忘れずに。
彼岸花は、祈った。



















「………よし、こんなもんかな。」
「もう、いいのかい?」
「うん。これ以上は逆にやりすぎだからね」
彼岸花はそう言って、土のついた掌を叩いた。
彼岸花達が現在居る場所は、数時間前まで死闘を繰り広げていた場所から少し進んだ先だ。高台になっているここからは、池がよく見える。
「ここなら、少しはゆっくり眠れるよね」
燭台切が呟いた。彼岸花も頷いて、そっと手に持っていた刀をおろした。
刀をおろした場所は、植え替えた花達の中心。花に囲まれて、静かに眠ってほしい。
弔いという程でも無いが、何となくこうしたいと思った。
「………同じ自分でも、見てきたものが違うだけでどうとでもなるのですね」
太郎太刀がポツリと呟いた。
「そうだろうね。悪くも良くもなるよ。」
彼岸花は深くは言わず、そう返した。
きっと、彼の胸の内は穏やかではないだろう。それでも、それを知ってどうなるかは彼次第だ。
「……………今日は満月だね」
ふと、燭台切が空を見て、呟く。
燭台切の言葉に皆が同じく空を見ると、丸い月が此方を見下ろしていた。
「本当ですね。道理で、明るいと思いました」
太郎太刀はそう言うと、再びもう一人の自身を見た。
「どうして、彼は闇に落ちることしか出来なかったんでしょうね」
「………そうしないと主を殺せなかったからじゃないのかい?」
「………………そうですか」
次郎太刀の言葉に太郎太刀は俯く。
(……………どちらに転んでも自由か)
彼岸花は内心呟いて、考える。何も言わないと、決めたのだが……………。
「………例えどこの誰だとしても」
彼岸花は口を開いた。
「誰かの幸福を踏みにじる事は許されないんだよ。罪は己に返ってくる………でも、それ以前に誰かの不幸しか願えない自分で、居たくなんてない。私はそう思う」
紛れもない本心。
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